アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
チョコレートの箱でいうと、中にチョコレートが入っていない部分がところどころにあります。七階に三層吹抜けのホールがありますが、そのホールのための外部テラスなどがそれで、上が吹抜けていたりします。エントランスもそうで、ラッピングの紙の代わりに鏡面を使っているので、通りから見ると、中の人がひっくり返って見え、中から見ると外もひっくり返って見えます。ですから雨が降っているのを中から見ると、雨が下から上に降っているように見えるのです。
外壁は、箱であるか、トランクであるかぎりぎりのところでやろうと思っていましたので、一番外側にメタルのメッシュを張り、内側にもう一枚パネルを入れてあります。メッシュの種類は全部で四種類あります。ルイ・ヴィトンが「ダミエ柄」と呼んでいるパターン、チェッカーボードパターン、それに水平方向が強い柄で間隔が狭いものと広いものの計四種類です。水平方向が強い二種類の柄は、正面から見るとその違いがわかりますが、間隔の広いものが上にありますので、下から見るとふたつとも同じに見えます。背面のパネルには、ブロンズ色に近い鏡面のステンレスと、ゴールドのステンレス、そしてガラスの三種類が使われています。前に四種類、後ろに三種類ありますから、組み合わせは12種類です。その組合せによって、いろいろな種類の微妙な差が生まれるわけです。その差が、わかったり、わかんなかったりするような構成になっています。
メッシュを選んだというのは、表参道の並木のもっているテクスチヤャーと合わせたいという意図があったからです。東京の銀座とか名古屋の栄町の場合はハードでいいと思いましたが、ここでは並木の見え方を考えてメッシュにしました。あれだけの並木ですから、並木全体を見渡せる部分をつくるという方法も考えられますが、そういうことではないやり方、さまざまな木の表情は見えるけれど、全景は見えない、そういうやり方をしてみました。五階レベルがちょうど並木の上部になっていて、ここからは、下に樹海があるように見えます。これも緑のゾーンの見せ方のひとつです。三階ではガラスとメッシュ越しに緑があるため、はっきりとは見えませんが、すぐ前に緑のかたまりがある、ということはわかります。このように、階によって並木が違うように読みとられて見えるように、考えたのです。
店舗のインテリアはルイ・ヴィトンの設計部がデザインしていますが、七階の多目的ホールは僕たちの設計です。また、ルイ・ヴィトンではない別のお店が入っていて、そこは別のデザイナーがデザインしました。もちろんコミュニケーションしながらつくっていきましたが、三つのグループが別々に設計しているわりに、まとまったのではないかと思っています。
インテリアのデザインは、スペーサーである構造体が規定する空間を読み取って、それをどういうふうに空間にしていくかというところにポイントがあると思います。店舗は、基本的に箱と箱に分かれていても、連続感が欲しいので、読み取り方としては箱という単位より、箱と箱のつながりが主眼になってくると思います。そのため、箱のエンドに手摺りを設けず軽い金属のメッシュを張って、辛うじて箱であることが、霞がかかったようにわかるようになっています。
七階のホールは、ホールという性格もあって、店舗に比べて箱であるということが強調されています。トランクは普通、中に全部下地がまわっているものですから、ここでも床、壁、天井を白い布としました。この布は、レースのカーテンに白いリボン状のものをコンピュータで刺繍したものです。これは一筆書きみたいにつながってつくられていて、このパターンを試しながら、大きさなど決めたわけです。床は大理石、一種のテラゾーです。現場で全部磨いているのでジョイントはありませんが、よく見るとテクスチャーの多い仕上げになっています。シンプルながらテクスチャーが多いというこのホールの特徴は、ルイ・ヴィトンというブランドの特徴でもあります。また、そのホールに入るロビーは、黒っぽい木と茶色っぽい木、少し明るい木という三種類の木を使った寄せ木細工のような床、壁、天井になっています。
デザインで何ができるんだろうか、という時に、ひとつ考えられることは、ある形式を与えることだと思います。その形式とは、普通、構造体によって与えられるものですけれど、それ以外にもさまざまな形式があります。その形式自体は、首尾一貫している必要がありますが、読み取り方はいろいろであっていいのではないでしょうか。その読み取り方によって、違う内装やデザインがそこにくっつけられるのではないかと思うのです。
そこで、同潤会アパートも、もともと住宅としてつくられていたものが、お店になったりしています。立地条件がいいということもありますが、中の空間は非常に魅力的な空間なんです。その魅力的な空間であることを残して使われている。
これは恐らく住宅である機能というよりも、その空間というものがもっている、たまたまもったかもしれないけれど、その特質をうまく使っているいい例だと思うのです。
僕にとって豊かな街とは、あるひとつのルールや形式などをもっているけれど、その形式からひとつの結果しか出ないというのではなく、いろいろな結果が生まれてきている街です。建物もそれは同じで、僕自身の、こういう空間にしたいという個性だけでなく、ルイ・ヴィトンならルイ・ヴィトンの望む個性や、僕じゃないデザイナーの個性が混ざり合ってできるのがいいのではないかと思います。そういう意味で僕は、一般的な意味での建築デザインとは少し違うところをやっているんじゃないだろうか、とつくっていて思いました。