アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
これは山手線の目白駅の近くに建っている友人の住宅です。自宅を新築したいという依頼があって伺ってみると、木造の平屋に鉄骨の二階屋を増築されて、お住まいになられていました。最初の要望は、すべて壊して新しく建てたいということでしたが、施主のお母様は服飾関係ではわが国のパイオニアとして有名な方でした。自宅は、仕事場であり、一時期は文化人の集まりであったということもあり、やはり残した方がいいのではないかと申し上げました。最低限必要な部分を建て替え、大事な部分を残したのです。
最初に建てられた住宅は、戦後わりと早くに建った、いわゆる文化住宅です。調べてみると、床は腐っている、中はシロアリが食っている、といった具合で、残すのは大変だなと改めて思いました。とても手間がかかりますから、新築した方がよっぼど簡単です。ここでは、汚れた壁をきれいにして、残せるところは残しました。新築部分と連続させることで、みんなが集まれるところにしました。何の変哲もないリビングですが、やはり使い込まれた空間は面白いと思いました。 増築部分は、鉄骨の二階建てです。木質の内装をリニューアルしてゲストルームに改造しました。
新築の部分は、長さが11メートル、幅が4メートルに満たない細長い建物なので、できるだけメンバーを細くしました。当初、鉄骨のラーメンでやったらメンバーが大きすぎたので、構造設計者と検討し、ジョイントをすべてピンジョイントにして柱のメンバーを細くする、鳥かごのような構造形式としました。
まあまあの細さでできたと思います。柱はすべて75ミリメートルのアングルを組んでつくっています。楽しみながら暮らして頂いているようで僕もよかったなと思います。こうして新しいものが活きるのは、やはり古いものを残したからです。記憶が受け渡されている感じがします。非常に狭い建物ですので、息抜きをするために屋上に出られるようにと、屋上に行く階段をふたつつくりました。パーティーなどさまざまな目的に使用できるだろうと考えていたのですが、建物がほぼ出来上がる頃に隣のマンションから丸見えだということが分かりました。そこであまりコストをかけずに目隠しになるようなものがつくれないかと、あれこれ思い悩んでいたところ、ある時、農業用の防虫網に目が留まりました。調べてみると、それは寒冷沙で割合に値段も安い。そこで屋上には、寒冷沙を用いて覆いをつくったのです。
これは現在つくっている住宅で、ある詩人の自邸です。ある日、古い農家を手に入れたのでそれを住宅にしたいという依頼がありました。見に行ってみると、実に普通の木造で、使っている材料も安いですし、何の贅沢もありません。特に取り柄のない住宅ですが、壁に傷がついていたり煤で真っ黒だったりと、長い間使った痕跡だけは残っています。壊した方がよっぼど楽だとは思いましたが、やはり記憶をつないでいきたいという気持ちから、残すことになりました。
僕が提案したのが、これを残しながらその周囲に必要な機能を配置するというものです。既存の建物は居間的に使って、それを下屋の高さのフラットルーフをもつ新築部分が囲い込むという形です。何ということはない建て方ですが、この場所の記憶を残していくことにしてよかったと思います。付け加えるものは控えめに目立たないようにして、古い家屋の瓦屋根が際立つようにしました。仕上げは、コストの問題から、波板の鉄板でくるんでいるだけです。