アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
ローエミッションの古い都市のリニューアルで、6家族が入る建物ですからプライバシーを確保することを考えました。そのために、ここでは僕が以前からやっている「スペースブロック」の手法を用いています。建築というのは、基本的に三次元の空間をつくることですが、設計しようとするとまずどうしても二次元の平面図や断面図を書くことから始めることになります。よく「美しい平面図」というようないい方をしたりしますが、平面図自体は建物ができた時に見えるわけではありません。それだったら最初から立体そのもので考えることはできないかというのが始まりです。
でも模型からつくろうとしても何かしらのスケッチがないと、いきなりつくることはできません。そこで、たとえば図書館でしたら、磯崎新さんの「北九州市立図書館」や、エリック・グンナー・アスプルンドの「ストックホルム図書館」などの主空間を、ひと固まりで取り出して、同スケールでデータベース化することから始めました。図書館の設計を依頼された時に、このデータベースから空間を取り出してみるのです。こちらとこちらでどちらがいいかと考えてみたり、積み木みたいにくっつけていけば、ゼロから考えなくても済みます。それに、その方がよりよいものができるのではないかとやっています。でも特徴のあるものをくっつけると、隙間が蟻の巣のようになって入れないところができてしまうので、じゃあキューブにして積んだらいいんじゃないかと考えました。キューブが三個だと直線かL字の二種類しかなく、四個は直線か田の字、とやっていくと、どう置いても平面、つまり二次元からの発想ではできないものが生まれてきます。
キューブを積んでいった中に機能をビルトインするという順番で設計をしたのが、大阪の「スペースブロック上新庄」というアパートです。ここではまずキューブの組み合わせをいくつか考えました。T字で右側に凹んだ場所があるものとか、一直線になっているもの、いきなり正面に壁があってジグザグと左側に進むと吹抜けがあるもの、縦方向にジグザグと上につながっていくものとかです。こういう設計のやり方ですと、たまたまできた形に対して、どこから入ってどこに窓を空けてどう設備などの機能をビルトインするかと考えることになります。普通の平面や断面から考えるプランニングからすれば、めちゃくちゃなやり方ですが、ここでは空間の形を先に考えることにしたのです。
もともとが銭湯で、敷地の一部に重油を運ぶための通路がありましたので、二面道路のうち間口の狭い側には独特の立面ができました。これをハノイの人に見せると、彼らにとっては親しみのあるプロポーションなので違和感なく受け入れてくれます。
スペースブロックの積み木で計画する際に、キューブはすべて同じ色ではなく、色を変えるようにしました。たとえば、内部と外部で色を変えるとか、ほかの用途に変更できない部分と何にでもなる部分で色を変えるなど、意味づけをしやすくしています。透明なところを仮に外部と定義して見ると、ものすごくポーラス(穴だらけの、多孔質な)空間ができます。外部の比率をヴォイド率と呼んでそれを検証することもできます。
実はハノイでかなり高密度に路上に人がいたのは5、6年前で、バイクより自転車が多かった頃です。その後は車もほかの街と同じように増えてきていますが、ハノイ市政府は対策として、三六通り地区内では駐車だけではなく停車するだけでもペナルティを課すようにしたのです。タクシーもこのエリアでは停めてくれません。そうすることで車をこのエリアに入れないようにしています。ですから、今はオートバイのほうが圧倒的に多いのです。要するにパレードをやっているような密度感がこの路上にはあります。
大学での研究プロジェクトなので、いろいろな指標でモデルをつくっています。中庭をテーマとしたものもあれば、伝統的な工法から解いているものもあります。二年前のベネチアビエンナーレには街区ひとつ分の50分の1のモデルを出展しました。学生7、8人が二週間で組み立てました。最終案は10分の1でもモデルをつくっています。なぜ、そのようなスケールでつくったかというと、とにかく大きくつくれば、つくる際にディテールを考えざるを得ないと思ったからです。実務経験のない学生たちが図面を描くのに、参考になると思いました。
当初は旧市街地につくろうと思ったので屋根に勾配がありますが、最終的にモダニズムの建築でできている大学のキャンパスに建てることになったのでフラットルーフに変えました。6家族の住宅が入っていますが、その中を熟い空気が上に扱けていって、最後は逆はき出し窓(天井の際にある内倒し窓)やジャロジー窓を通して出ていきます。ベトナムは太陽が真上にくるので、屋根はダブルルーフになっており、直射を避けています。