アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
空気の流れに関しては、CFD解析で検証を行いました。これは空気齢を測定するもので、解析をして色が濃く表示されるところが空気齢の高いところになります。こういうところは風が動いていなくて汚染空気が溜まっている、換気が悪いところです。キューブの積み方を変えたり、窓の空け方を変えながら、色の濃いところをなくしていって、つねに空気が循環するようなモデルをつくっていくのです。この結果、46メートル奥に入った袋小路のような場所でも、実際に身体で風を感じることができます。ハノイの人は風が動いているのを面白がって、手品のようだといって感動してくれました。
最近、塚本由晴さんが「フラックスマネージメント」といういい方をされていますが、それでいうと、これは風の取り扱い方が形を決めている建物といってもいいかもしれません。
大学のキャンパスに建っているから横からも見えますが、街の中に建てると横の面はまったく見えません。フラットルーフにしてしまったので、ドバイあたりの集落に見えてしまいます。ちょうど緯度的にも同じで、ペルシャ湾岸も湿度が高いから、雨の扱い方が変わるだけで建築の姿は同じなんだなと気づきました。外部といっても上にボリュームがあるので雨は直接かからず風は抜けていきます。熱い時のハノイではかなり快適な空間になります。
東京大学先端科学技術研究センター三号館も空気の流れを考えてつくったものです。規模こそ違いますが、内部のアトリウムの空間はハノイの集合住宅と似たような形をしています。
この建物は二期工事で完成するもので、2003年3月に一期工事を終えました。
大きな吹抜け空間が建物全体を貫いていくのが特徴です。コンピュータで自動制御する窓がついています。ベトナムの場合はここがインテリアではなく外部だったのですが、東京では冬が寒いし、いちばん熱い時期には冷房がほしいという人もいるので、窓の開閉で制御したほうがいいという考え方です。プレキャスト・コンクリートでつくった駆体の中にこの吹抜け空間をビルトインしています。
ベトナムでは、現地の材料を使うようにしました。アルミサッシュといっても型鋼を駄菓子屋さんのような店から買ってきて、現場で組み立てたものです。ですから精密性とか気密性ははとんどありませんし、みんなそんなものだと思っています。でも日本で新しいタイプのルーバー窓をつくろうとすると、当たり前ですが何度も試験が必要です。
ビッグハート出雲では、その場所のエンタルピーとか風雨の強さ、火災信号など、いろいろなものをコンピュータで制御する窓を開発しました。それと同様のものをこの建物の要所要所にはめ込んでいます。かなり巨大な空間なので、普通に空調すると、ものすごくエネルギーや維持費がかかりますが、結露を止める時にだけ予冷と予暖をするようにしました。基本的には自然の風が動いているだけの空調のない空間です。
なぜこのような空間があるかというと、この建物にはいろいろな分野の実験室が入っているからです。三つぐらいのレベルの異なるクルーンルームもあれば、情報テクノロジー、バイオテクノロジーの施設もあります。とくに化学系の研究室はドラフトチャンバーを使って、ものすごくたくさんの新鮮外気を引き込むので、結露が大きな問題になります。それに対してこの空間は大きなチャンバーボックスのような役割を果たすので、研究所として意味のある空間となります。また、さまざまな分野の最先端の研究をされているのに、みなさん部屋の中にこもってしまっているので、多少なりともお互いの気配がわかったほうがいいと考え、こういう大きくて多くの人が集うことのできる空間を設けたのです。