アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
青森県の十和田市に建つ予定のアートセンターです。
十和田市の官庁街は、庁舎の統合や移転のために上地が部分的に空いた歯抜け状態になっていて、これがひとつの都市問題になっています。そのため、ここに美術活動を持ち込み、アートによって官庁街全体を再生しようというプロジェクトが進められています。これは「野外芸術文化ゾーン構想」と呼ばれるもので、市とナンジョウ アンド アソシエイツが中心となって進めています。官庁街通り全体を美術館と見立て、点在している空き地をイベント広場や屋外展示室に変えていこうという構想です。このアートセンターは、そういう空き地のひとつに建ちます。コンペが四月に行われて勝つことができました。この建物は美術館のようなものですが、展示室で美術作品を展示するだけではなく、レクチャーやワークショップも行うことができるアートセンターです。また、独立した美術を展示する美術館であると同時に、都市再生の活動にも寄与する施設でもあります。
この美術館のプログラムでユニークなのは、展示室の6〜7割がコミッションワークだということです。コミッションワークというのは、アーティストが空間に作品を永久展示するというものです。作品と空間が密接な関係を持ちながら互いに形づくられるもので、「直島Nミュージアム」と同じです。一般的に展示室はニュートラルな箱で、どのような作品にも対応できるような汎用性を持つのがよいわけですが、作品が特定される場合はむしろ逆で、作品にあった寸法の部屋が求められます。それで僕は展示室と展示室を離すということを考えました。離すことによって各室は独立し、自由に形をつくることができます。部屋間には、屋外展示スペースが生まれます。こうすることで、この官庁街通りが持つ建物と広場が反復していくという構造を、この建物の敷地においても継承できないかと考えました。官庁街通りは建物の横にアート作品があったり、イベント広場があったり、建物があったりと反復のストラクチャーができるので、それと同じような状態をつくろうと考えています。
展示室を離すことのメリットは、屋外展示室を持てること、そしてよりオープンなストラクチャーがつくれることです。また、部屋の形を建築の全体システムにしたがって決めるのではなく、美術作品の要求に合わせて変えられるということです。離すわけですから、構造形式や天井高がすべて自由になります。さらに、現代美術の展示では、天窓採光が必要だったり、横からの採光が必要だったりと、採光にもいろいろなパターンがありますが、離して独立させ戸建て住宅のような独立性を与えることで、どのような採光も可能となります。展示室と展示室の繋ぎ方は廊下で繋げるというシステムです。並列繋ぎや直列繋ぎ、いろいろなことが可能ですが、いずれにしても中と外が同時に体験できて、美術作品と街を両方感じることができます。
敷地に合わせてバラバラと展示室の箱が並んで、それがスムーズに道で繋がっていくというプランです。訪れた人は、そこを双六のようにたどっていくことが可能です。箱は閉鎖性があるものと開放性があるものとさまざまですが、廊下は基本的に開放的なガラスの廊下になっていて、庭を楽しみながら移動できるようになっています。箱は部分的に展示室になったり、レクチャールームになったり、ライブラリーになったりします。箱は斜めに振られて置かれています。向かい側の屋外広場から建物の中が見えるようになっていたり、開放的な部屋が向かい合っていて、官庁街通りの別の空間から見た時に、建物だけではなくて中の作品が見えるようになっています。美術体験が建物内だけではなく、通り全体から連続していくようにと考えた配置です。道路に平行にしたり、敷地に馴染むように自然に角度がついているものもあります。バラバラでありながらも、全体としてはひとつの大きな景観をつくり出そうとしています。展示室の中が見えたり、展示室を行き来する人たちの風景が見えたり、屋外展示室が見えたりという開放的な風景をつくろうとしています。
美術展示室以外のところは、イベントスペースや屋外スペースをつくるようにしています。隙間を積極的につくり出して、アーティストが作品をつくりたくなるような路地空間をつくっています。二階のブリッジからしかアプローチできない離れのような奥の間のような展示室もあります。
二番目に大きい屋外展示室は、コンペ時の提案では作品を真ん中に置いていますが、イベントに使われることも期待しています。
ビルとビルの隙間を歩くような道があって、そこを歩いていると広場に出たり、官庁街通りに抜けたりします。広場は屋外展示の場にもなっていますが、これを通常の巡回路からは見えない、普通に歩いてくると見逃してしまうこともあるような場所に設置することも考えました。すべてが巡回路の上に展開するのではなく、自分で探さなければ分からないような隠された場所をつくるのもよいのではないかと考えました。建物は2000平方メートルと小さく、敷地も限定されていますが、その大きさ以上の奥行を建物に与えようとしています。自分で探さなくてはならないような場所、簡単にアプローチできるような展示室、いろいろな場所をつくろうとしています。ボリュームが間隔をおいて置かれたり、一カ所に集約されて置かれていることで、単にバラバラなのではない、ある全体的な風景をつくろうと試みています。たとえば街でも、東京の丸の内地区はビルが整然と並んでいますが、下町に行くとギュウギュウに建物が密集していて、まったく違う様相がつくり出されています。ビルと道路だけでできているのにそれだけでぜんぜん違った都市風景ができていくのを見て、そういうことが建築の創作にも使えないかと思っていました。ここはそのチャレンジの場でもあります。
現在は予算や美術作品のキャラクターに合わせて部屋の形を調整して、実施設計に入ろうとしているところで、来年に着工する予定です。