アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
集合住宅のような、また住宅のような建物です。
2002年に設計を始めて2005年11月に竣工しました。場所は東京の古い住宅地です。敷地周辺は2階建て木造アパートが並んでいて、昔の東京の風景を残しているような魅力的な場所です。街を俯瞰すると、グリッド状に縦横の道があって、建物もバラバラながら秩序だって並んでいます。
賃貸の集合住宅とクライアントの住宅をひとつの敷地の中につくることが求められました。クライアントは、ローンを組んでこの住宅を建てるわけですが、ローンを返済した後は賃貸をやめて、集合住宅であった部分も自分の家族で使っていきたいと考えていました。つまり、ローンが返済されるにしたがって店子さんを減らしていくのです。そして、その分、徐々に自分の家の範囲を広げて、最終的には全体を自分の家にするという計画です。僕もそれはとても面白いと感じて、集合住宅から住宅に変わっていく風景を考えるようになりました。
もともとは1、2階が賃貸で3階にオーナーが住むという典型的な形式を考えていました。ただ一部屋一部屋を徐々に自分のものにしていくわけですから、同じ部屋では面白くもありません。そこで違った形をそれぞれの賃貸住宅に与えるため、ひとつひとつの住宅を分散させることを考えました。同時にひとつひとつに庭を与えて、賃貸住宅で専用の庭を付けてあげれば、それがある魅力になるのではないかと思ったのです。また建物を合体させると大きなボリュームになって、街全体のスケール感を壊してしまうと感じたので、むしろバラバラにして周りの建物よりも小さくした方がよいのではないかとも考えました。建物自体は新築ですから周囲には馴染みませんが、都市のストラクチャーは継承できるのではないかと考えたのです。
バラバラに配されている賃貸の部屋は、吹き抜けて地下にお風呂のあるタイプ、ワンルームで離れのようにお風呂だけがガラスの廊下で繋がっているタイプ、1階がリビングダイニング、2階が寝室、地下がお風呂の小さな3階建てのタイプ、屋上テラスが付いているタイプ、クライアントの友人用に用意した少し大きめの3階建てで1階がダイニング、2階がお風呂、3階が主寝室のタイプなどがあります。庭との関係もいろいろで、四方が庭に囲まれた部屋もあります。庭との関係や室内の構成が異なるいろいろな住空間をつくろうと試みています。
周辺環境を見ると、まだ鋪装されておらず砂利だったり、勝手にガーデニングをして占領しているような路地などがあって、建物とすき間、路地の関係が魅力的なことも僕にとっては印象的でした。まだ開放的な雰囲気が残る周辺環境をどう連続させていくのかということを考えて、このような独立分棟配置としました。四方からアクセスできるようにして、敷地のいちばん奥に暗い庭をつくったり、地域の人たちだけが使う細い道路に対して開放的にしたりと、ざまざまな関係性を用いて住空間の魅力を考えようとしています。
建物は小さいので鉄板造で組み立てることにしました。面でつくられると非常に閉鎖的になるので、なるべく限界まで大きな孔を開けることで開放的な室内をつくろうと考えています。非常に薄い鉄板が立ち上がって組み立てられていきます。建物と建物が迫っているので、隣の建物と向かい合う部分では窓の位置をずらしているので開口部はランダムな配置になっています。部分的な条件を建物全体の設計に積極的に利用することによって、全体がランダムになっていくものをつくろうと試みています。それによって部分部分での快適性を考えようとしています。
この写真は、建物ができ上がって、狭いところにギュウギュウ詰めに建っている状態を示しています。庭全体は上で、部分的に畑にしたり大木を植えたりしようと考えています。
森山さんの住宅には梯子でしかアプローチできない隠れ家があります。その向かいに離れのお風呂があって、それらに囲まれた庭があります。母屋の高さは、高さ制限で決まっています。2階の倉庫の天井は頭が着くぐらい低くて、その代わりに3階の天井高は3メートル以上取って、大きな伸びやかな空間をつくろうとしています。とにかく多くの孔を開けたので、壁構造であっても透明な空間になっています。敷地の中に、細く高いもの、太く低いものが建ったり、いろいろなボリュームが並んでいます。これからの町や住まいのための風景というか、環境のようなものをつくろうとしています。