アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
私的な話が続きますが、これは私が育った町につくった博物館です。近作というには何年もたってしまいましたが、93年に出来上がった「下謝訪町立諏訪湖博物館・赤彦記念館」という、長野県の山の中にある湖のほとりにつくられた博物館で、湖をテーマにした博物館です。
湖面に沿って建物はゆるく大きくカーブしています。当時、私の家は湖のほとりにあって、庭から湖畔に出られました。冬、家の庭からスケート靴を履いて凍った湖面をすべって学校へ通っていました。また、諏訪湖を見ながら明日の天気はどうだとか、季節の移り変わりを子供ながらに感じていたわけです。そのころの体験が私の設計においていろいろな空間に影響を及ぼしているのではないかと、最近になって思い始めたわけです。無意識のうちにカーブした空間が出てくる。それは、この盆地に住んでいたことと関係があって、何かを囲い込む意識が出てきてしまうわけです。そんなことを皆さんにも記憶にとどめておいていただきたいと思ったので、このプロジェクトをあえてご紹介したいと思います。
エントランスホールを入ったところに小さな光庭があり、そこに浅く水が溜められています。その中からエレベータのシャフトが立ち上がっていて、二階の展示室へ上がるわけです。
二階のレヴェルで床を下りたところはガラスの床になっていて、歩きながら正面に湖が見えます。そうしますと、実際にこの建物の中にいるときには湖に近づくことはできないわけですが、足もとにある水とガラスの上に立っていることと、正面に見える湖とが折り重なって、自分が水の上に立っているかのような印象を受けます。これも一つのバーチュアルな水であるわけですけれども、そういったことが今日の建築をつくっていく上で非常に重要なことではないだろうかと思っています。というのは、逆に今の人たちはそういったイメージによって何かを組み上げていく能力があると思われるからです。
寒くなり始めた十二月のよく晴れた朝、湖面に水平の虹が出るのですが、それは私が諏訪湖に抱いている最も美しい神秘的な思い出です。このようなかたちをイメージしたのは、船のようなものをつくりたいということではなく、むしろ周囲の自然、山の意識もありましたし、湖面に靄がかかるとか虹がかかるというような気象の現象的なもの、そんなイメージをゆるいカーブの中に描きたいと思ったからです。水の色、空の色を反射しながら、この建物の一日の表情が変わっていくことにすく興味がありました。しかし、その現象的なものとはいっても一度かたちをつくってしまうとご覧のように極めて固い、明確なかたちをもってしまいます。私にとってそれは建築をつくることの矛盾であって、もっと現象的な、かたちをとどめないものをつくる方法はないのだろうかといつも考えるわけですがいつも失敗に終わってしまいます。