アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「熊野古道なかへち美術館」は、「S-HOUSE」とほぼ同じ時期につくっていた和歌山県の中辺路町にある町立の美術館です。四角い日本画の展示室には外光を入れないでくださいとキュレーターからいわれました。その四角い展示室が、そのまま立ち上がってくると大きなボックスができるのですが、この敷地全体が大きな公園になる計画だったので、もう少し外との出入りのようなスペースを積極的に考えたいと思って、ガラスの回廊をつくって休憩所とかエントランスホールの場所を取っています。四角い展示室のボックスはコンクリートで、そのまわりをポリカーボネートで包んでいます。そのコンクリートとポリカーボネート壁の間は空調機置き場とダクトスペースになっていますが、いちばん内側の場所にある展示室は、このようなバッファーゾーンがあって外の負荷から守られるというわけです。
平面が非常に奔放なかたちをしていますが、こういう場所ですからいろんな方向から人がアプローチするので、どこが正面か裏なのかわからないようにしようと考えました。つまりファサードをつくらないこと、ひとつのかたちとして認識されにくいようなもので、ひだ状の場所を歩いていて、何となく方向がわからなくなるようなもの、それから全体のかたちがつかめなくなるようなものを考えていました。
外壁にはガラスのところも同じ半透明なフィルムを貼っていますから、まわりの風景が映り込み、天気や季節によって色合いが変わります。直射日光が当たったり、陰になったりすることによってブルーがグリーンがかったり、反射面になったり、濁ったり、それから黒いところが白っぼくなったりします。
プランの真ん中は日本画の展示室なので、その展示室の外の回廊では、着脱可能なホワイトボードの材料でパネルをつくって、もう少し簡単なインスタレーションとか、地元の人たちの簡単な展覧会の場所になったらいいと思っていました。たとえば、外まわりにはガラスのリブが一周していますので、それを動かしながら止めて、小さな展覧会が簡単に出来上がってくるようにと思っていました。
この半透明フィルムには透明なパターンが入っていて場所によってパターンが切り替わります。完全に透明ではなくて半透明に荒らしていますから、モニターで景色を見ているようです。これも自然がそのままダイレクトに飛び込んでくるというよりも、ちょっとしたことですけれども、違った接し方ができないかと思って、このような解像度を落としたものを考えました。
昼間はひだ状にグネグネつながっていたのが、夜になるとガラス面だけが断片的に浮き上がってきます。照明は、コンクリートの展示室とこのポリカーボネートの間のダクトスペースが光って、全体照明になっています。
「飯田市小笠原資料館」は、この春(一九九九年)に完成しましたが、設計は中辺路町の美術館と同じ頃でしたから、時間順に話していくとこのあたりに入ってきます。
これも周囲の景色の中でどのように建物が近づいたり遠のいたりして置けるか、ということを考えてつくりました。ただこれは先ほどのように、周囲からフリーに建つかたちではなく、昔のお城の跡地であって、歴史的な遺構だったものですから、そういう制限の中で建築をどのように置いたらいいのか、ということを考えました。
敷地内に国の重要文化財として書院が残っていて、背後が山になっていて手前は崖で、その下に田んぼが広がっています。
文化庁の指導では、新しい建物はこの書院から二十メートル離さなければならないので、線を引いたのがこういうカーブしたラインです。建てようと思えば真っすぐに建てられたのですが、こういう場所では真っすぐなかたちは、ちょっと強すぎるかなと思って、少しだけ山のカーブに沿うような沿わないようなかたちにしました。今はスロープが真っすぐですけど、当時は少し山の中に入るように描いていました。
エントランスホールの左右に企画展示室と常設展示室があり、ラウンジがその隣にあります。収蔵室はさらにその奥にあります。収蔵室の場合は、ときどき企画を変えたとき、展示物を入れ換えたり、展示物を休めるという意味で使われるところなので、最初に収蔵してしまえば、その後は、大きな擬人口は基本的に必要ありませんので、こういうかたちのプランになっています。すごく静かな場所ですから、歴史的なものが残っている中に唐突に新しい建築を置くというよりも、なるたけ風景とかそこに流れている時間とかというものに何か関係をもてるような建築にしたいと思ってつくりました。
たとえば、展示物だけではなくて、背後の山とか敷地のかたちを残す。古い書院とかこの周辺の風景とか、そのようなもの全部がここを歩くときに、展示物の対象となってくるようになったらいいなと思っていました。昔の水槽が残ったりしてるので、それを丸いもので囲みながらこの計画の中に取り入れました。
構造の佐々木睦朗さんとやっているのですが、だいたい全長八十メートルを六本の柱で支えています。私たちとしては柱をなるべく少なくして建てて、浮いた状態にしたかったのです。通常だったら大スパンに対して構造は大がかりになると思うんですけど、それをなるべく普通の構造に見えるようにしたいということです。
スロープを登ってくると、建物が山を背にしてポンと手前から出てくるのですけれども、フラットに見えます。だんだん近づいていくと少し曲面になってくるのがわかります。低いピロティをくぐって、建物と山の境界をスロープで上がっていくようになっています。
また登っていくとき、真の竹藪がガラス面に映って、それを見ながらエントランスへアプローチします。ホールへ入ると正面に書院のかたちが見えるようになっています。日本の古い建物は屋根がすごく大きく、北面からだとなかなかこの屋根に対してよく見えないので、エントランスホールのセンターを書院と合わせて、立面を真っ正面から見えるようなかたちにしました。それと裏山が見えるようになっています。
ワンルームの長い展示室のガラスはシルクスクリーン印刷にして四十パーセントぐらいの開口率の模様刷りにしました。