アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
一九九八年の秋に出来上がった「ひたち野リフレ」です。最初に申し上げましたフレキシビリティというのは、このオフィスビルをつくるようになってから考えました。
このオフィスビルは、JRが新しい駅をつくって、公団が開発するエリアの最初の建物として計画が始まりました。とにかく私が最初にビルをつくって、その背後にいろんな開発が進んで周辺に住宅がでさてくるというプロジェクトであって、クライアントからプロジェクトのひとつ目のビルであり、それから駅前だということもあるのでランドマークになるようなビルにしてくださいといわれました。
しかし、そうはいってもプログラムは普通の賃貸ビルです。一階にはコンビニエンスストアとファーストフードの店が入ることになっています。二階は、いわゆるペデストリアンデッキがあって、ここだけ公共の場所になっています。三階より六階までが賃貸スペースです。当面は開発公団の事務所が入って、軌道に乗り始めたらいろいろな利便施設として使われると思います。
設計の当初、建築のかたちや構成がランドマークになるように考えていたのですけど、どう考えても間仕切りをいろいろなかたちで仕切っていくときに、特殊な形態なり断面をつくるのが不合理だと思って、偏心プレースを取り込んで、部材の大きさをある程度きれいに小さく調整しながらつくつていく構造形態になりました。
はじめて敷地を見に行ったとき、道も敷地のかたちもなく、駅もまだ工事が始まっていませんでした。いきなりあのあたりが敷地ですといわれて始まったものですから、これから刻々と周辺の環境が変わっていくだろうし、それからこのプロジェクトに具体的なコンテクストがない中でどういうものをつくるかというときに、唯一わかっていたのは大きな正面ができるということでした。ガラスのルーバーを立てて、空とか自然の一部とか駅とか、将来どんなに環境が変わっても、そういったものが断片的にここでミックスされて映し出されると考えました。私にとっては、目で見ているものだけがコンテクストだと考えられない状況に対して、ひとつの表現方法としてみようとしました。
その後、駅ビルやデッキが立派にできてきたので、ガラスのカーテンウォールがそういうものを映すよりは、ガラスのルーバーをいろんな角度でシミュレーションして、いつも空しか映さない壁面に変えました。遠くから見るとフラットな面に見えるのですけど、ガラスのピースは十五度上を向いているのでどこから見てもまわりの風景が映らないというファサードにしました。だんだん近づいていくと、ガラスの物質感が見えてきます。ほとんど壁画みたいに見えるときもあって、そういう中を人が入っていくようになります。また、曇っているときはほとんど真っ白い状態のファサードになります。
二階だけはフィックスのガラスになっているんですけど、上のオフィスフロアは全部引き違いの扉がついていて、両側とも自然換気が気軽にできるようにしています。ルーバーとの隙間が四十五センチメートルありますから、そこで吸気と排気をして、換気ダクトを引きまわさないようにしました。ルーバーが建物をカバーしていることで、駅前の広場に対してもオフィスビルとしての抽象性が保てたと思っています。
夜になると、中が明るくなって、外側にガラスのルーバーがあると思えないような、構造のフレームだけが見えてくるようになります。
オフィスビルは単純な床を重ねてシンプルな柱と梁で支えるのがいいという考え方もあります。インテリアの間仕切りは使う人の都合で自由に変えられるので、建築を設計するときに用意しておくのは、間仕切りが自由に動かせるように、そこから切り離された構造体だけでよいという考え方も、フレキシビリティのひとつの考え方です。それは十分有効だし、必要なことでもあるのですが、今もっと違ったフレキシビリティが求められているとすると、そういう切り方が間違っているのではないかと思いました。構造に対して可動間仕切りとか仕上げというように、分割しないで考えることで、違ったことが起こるのではないかと思っています。