アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
その後またコンペがあって、表参道店も設計することになりましたが、ここではこれまでと同じことはやりたくない、違うことをしたいと思いました。そこで出てきたのがヴォリュームです。先のふたつのヴィトンもヴォリュームへの関心ですが、ここではヴォリュームに見せるのではなく、ヴォリュームとしてつくろうと思ったのです。ヴォリュームというのは空気や水やガスの固まりのようなもので、マスと違ってそれ自体が形をもたないときに、それをヴォリュームと呼びます。ガスは不定形ですから、ガスのヴォリュームを封入したといえるけど、ガスのマスを封入したとはいいません。
「アエロジェル」という物質があります。97パーセントは空気で、残りの二、三パーセントは物質というものですが、煙が固まっているような、豆腐を透明にしたようなもので、そんなものをイメージしながらヴォリュームというものを考えるとわかりやすいのではないかと思います。普通にヴォリュームをつくろうとすると不定形だから容器がないとできません。容器がなくてヴォリュームをつくることは物的には不可能なことで、建物でも同じようにヴォリュームをつくること自体が不可能なこと、だからヴォリュームのように見せることが精一杯だとそれまでは考えていたのです。
ヴォリュームがおもしろいと思ったきっかけは、ロンドンの動物園のペンギンプール(1934年、設計/バーソルド・ルベトキン)です。そこは彫り込んだところにあって、コンクリートでできた薄い滑り台のような、螺旋の上ったり降りたりするところがあって、見ているとだんだんペンギンがうらやましくなってきます。ペンギンが人間を観察しているかと思うぐらいの特等席で、自分がペンギンになったとしたらどう感じるだろうかと想像して幸せな気持ちになりました。そのときに、結局ヴォリュームってこのことなのかと思ったのです。つまり、物的には不可能ですが、そこに、こちら側と違う空気でできていて、自分がその空気の中にいられるかもしれないとか、あるいはその向こうの空気にいたときの感覚が想像できるというのがヴォリューム体験なのだと。
表参道店ではヴォリュームを見せることはやめて、ヴォリュームの体験として建物をつくることに徹底したいなと思いました。直方体の空間=箱の積み重ねでできていますので、ある箱と隣り合わせになっている箱どうしでお互いに関係性は常に意識されます。自分が今ある箱にいるとき、向こう側の箱には違う風景があって、こことは違う空気があるだろうなと思えるような体験としてのヴォリューム、そんなことで建物をつくりたいと思いました。
そういう建物の成功例としては、ル・コルビュジエのラ・トゥーレット修道院があります。平面図は簡単だけど中は迷路みたいになっていて、歩いていると自分がどこにいるかわかりません。出てきて自分で体験したことを重ね合わせると、つながりや大きさがこうだつたと頭の中で空間をもう一度構築できる、そんなヴォリュームとしてできている建物です。表参道では、箱をルイ、・ヴィトンの商品であるトランクに見立てて積み重ねています。ひとつずつ特徴をもったさまざまな空間が中に詰まっていて、自分がいるところとは別なところにも、そういう空間があるように見える、空間があるという建物です。