アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
36通り地区というハノイの旧市街の調査から始まりました。とにかく間口が狭くて奥行のある家が密集しているのが特徴です。路上にあらゆる活働が溢れ出しているところです。僕は「アクティビティ」という言葉をキーにして小学校などを設計してきましたが、ここは道にアクティビティが満ちています。間口が2.5メートルで奥行が80メートルというような細長い家がごろごろしているのです。建築の設計する人がそういう敷地図を見たら、普通にはできっこないのでワクワクするのではないかと思います。細長い家が奥の方までつながっているので、ひとつの街区も結構大きいのです。
36通り地区はお菓子屋街や仏具屋街のような通りが36本あったところですが、その中のいちばん大きい街区を僕らはとにかくしらみつぶしに調べました。間口が狭くて奥行があるから、午前中いっぱい使っても数軒しか調べられません。でも距錐としてはすごい労働をしているんです。
この街区のすべての住宅を、実際に中まで入って調べました。階段を上ったり下ったりの移動がたいへんなうえ、狭い間口の中で奥に入っていくため、通路は肩が擦れるぐらいの幅です。通りの騒しい音は奥に入っていくと消えていきます。もともとは中庭がいくつも設けられていたのですが、増築でそのいくつかは室内になってしまっています。日本でいうSOHOに似た食住近接で、街が賑わうような面白いつくりだと思います。中庭をさらに奥へいくと、通路は途中でクランクしています。奥まで見通せないことでプライバシーが保たれているのです。実際には入口におばあちゃんが座っていて、勝手に入ろうとするとベトナム語で制されます。これがプライバシーの確保にいちばん役立っているのかもしれません。
平均して二、三階建てで、居住密度は1ヘクタール当たりに1,000人です。これは14階建ての集合住宅が並ぶ高島平のようなニュータウンの密度です。高密度に住むことが地球環境問題解決になるという研究プロジェクトの一環としてハノイの調査に取り組んだのは、地球へのインパクトを減らすためには、超高層をどんどん建てて高密度にするのではなく、低層のままで高密度にする方が有効なのではないかという考えがあったからです。この街はまさにそういう知恵をもっているのだと思いました。建物の奥行が深いということは道路の割合が滅るということです。新しい都市をつくると道路の割合が増えるというのが普通の都市計画ですが、ここでは道路率が減るので宅地に使える部分が増えるのです。また、すごく細長いのですべての家は道路との間でヒエラルキーなしにつながっています。ゾーニングも階層性もありません。ですから何かをするには道路に出てくるわけです。60メートルの奥行がある建物をそのまま立ち上げたとすると高層ビルになります。
実際、香港の九龍半島のビルだとそのぐらいの高さです。上に人がたくさん住んでいて下はお店になってしまうという密度が、ここだと寝転がっているんです。
50パーセントが外部区間で50パーセントが内部空間という、普通で考えれば効率が悪いけど、その代わりに風通しがとてもいい住宅です。ですからエアコンがなくても、かなり長い時間を過ごせます。いちばん奥を部屋にしてしまうと空気が流れないので、中庭にするなどといった工夫も風通しのよさに一役買っています。建物を穴だらけにして風通しをよくし、なおかつ1ヘクタールに1,000人という密度で住めるようにすると都市が小さくなります。都市が小さいと環境負荷が少なくなるし、ほとんどエアコンを使わなくて生活できるからヒートアイランドが起こらず、交通の問題も少なくなります。実際に36通り地区はあらゆるお店がこの中にあって歩いて生活できます。