アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
ハノイでは積み木を使って現地の学生たちとワークショップをやったり、建築家協会の人びとの前で積み木を積んで見せたりしました。いちばん最初のワークショップから始まって、その都度テーマを変えていくつものスタディモデルを提案しました。時間もありましたし、しかも敷地は決まっていないので、さまざまな場所を調査しながら延々とやりました。
この建物はほんとうは36通り地区に建てようとしていたんですが、ハノイでもいちばん栄えている地域なので権利閑係が複雑でダメでした。日本の資金でつくるので一年ぐらいどこかへ出ていってくれれば新築をプレゼントするという話でうまくいくと思ったんですが…。
とても長い敷地なため全部をコントロールしきれないのです。結局、時間切れで大学のキャンパスにつくることになりました。
最終案は、六つの家族が集まって住むものになりました。とはいっても大学の中に建っていますから、このプロジェクトに携わった先生方に使ってもらいながら、データを取る研究センターとして利用することになっています。六軒とも一階は離れであったりS0HOになるようにつくっています。すべての家が、正確には一軒を除いてですが、一階から四階まで空間をもっています。それらの空間のすべての場所で空気の淀みがないように、何回も積み木の積み方を変えたり窓の開け方を変えたりしながらCFD解析を行いました。
現場監理では、考えられないようなことばかりたくさん起こって、毎日が事件の連続でした。学生三人が常駐してつくっていますし、実施図面も僕がアドバイスはしますが大学院生が描いています。日本の現場のことも知らないのにベトナムで実際にものをつくるのはたいへんだし、僕に聞かれても答えられないようなことがたくさんあるけれど、それはそれで楽しいものでした。たとえばベトナムには商品カタログというのがないため、建材マーケットストリートにいかないといけないんです。学生たちがデジカメで映像を撮って値段を調べた自家製のカタログをつくり、それをインターネットで送ってもらって、僕が見てから買いつけるんです。プロも素人もそこで直接交渉して買うという完全なオープンマーケットで、そういうこともいってみて初めてわかりました。
柱は22センチ角で、硬性型枠を使って打っています。スラブの型砕は足場板とも呼べないようなしろもので、かつ隙間だらけなものですから、大丈夫かと聞いたら、任せておけとピニルシートをその上に敷いてコンクリートを打っていました。そんな感じでつくっていきますから、端切れみたいなものがたくさんついています。壁はレンガを積んでいきます。丸い穴の開いた壁をつくりたいというと、現場で型枠をつくって即成PCレンガをつくってくれました。足場は一切ないし、落下防止もヘルメットもなく、サンダル裸足という世界で、よくけが人なしでできたものだと思います。屋根は直射がすごい強いのでやはり現場製PCルーバーで、ダブルルーフとしました。大学のキャンパスですから瓦屋根を載せるのに疑問を感じ、フラットルーフとしました。ベトナムはフランス領でしたからフラットルーフも伝統的な様式なのでそうしたのですが、実際につくってみると中近東の建物のような雰囲気です。緯度的に同じところで環境コンシャスに設計したらシンクロしたということでしょうか。
外とつながっているところは人が動く場所、空気が流れる場所でもあって、同時に軒下空間が発生します。ベトナムでは、食事や散髪が基本的に路上で行われます。そういう楽しい感じが、ここの軒下空間で生かされてるのではないかと思います。ただのがらんどうではなく、すべてが使われる空間になるはずです。
ハノイは今、ものすごく変わっています。1カ月に1回行っても変化がわかるぐらいのスピードです。日本は不景気になってからスピードが遅くなりました。何かを変えようとすると抵抗だらけです。反面、共産主義だったはずの中国やベトナムはある方向で走ろうと決めたら、すごい速さで進みます。ハノイの36通り地区はきわめてユニークな都市ですから、世界中から研究者がきて、みんな保存しろといい残していくそうです。でもいちばん賑やかで魅力的なところほど建物は改築されていて古いものが残っているわけではありませんから、いったい何を保存すればいいのかとハノイの専門家は思案していました。僕らは短冊型の都市の構造とか、通りに対し各住戸が奥行きの長さに関係なく同じ関係で接していてヒエラルキーが全然ないということを保存できたらいいのではないかと提案しました。