アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
日本でも設計をするときに「黒と白」という説明の仕方をよくすることがありますが、ここでも「ブラック/ホワイト」ということばで説明をしました。要するに、「黒」というのは機能と空間が一対一に対応したところ、住宅でいうとトイレや玄関や寝室、押入れや倉庫、学校でいうと音楽教室とかいうもので、それ以外の使われ方をしないものです。パブリックかプライベートかという意味ではないので、廊下が移動にしか使われなければ「黒」で、幅の広い廊下が移動以外に使われるであれば「白」の空間です。「白」というのは、アクティビティによってその場所の呼び方が変わるような空間のことです。ですから、社員食堂もテーブルレイアウトを変えてスクリーンをつけて講演会をすれば違う使われ方をするので「白」の空間となります。住宅のリビングダイニングは一見すると「白」のような気がするのですが、日本の寸法ではいったん家具を入れてしまうと違った使われ方がほとんど考えられないので「黒」の空間としてます。昔の日本の民家の田の字型プランは、仏壇と押入以外、「白」の空間です。畳の空間は、卓袱台を置けば食堂、布団を敷けば寝室となるからです。しかし、プライバシーや食寝分離といった戦後の考え方のもと、機能に対して空間をつくるやり方を続けていた結果、ほとんどの住宅は真っ黒になってしまいました。真っ黒ということは、その目的で使う時以外は使わない部屋になるから全体が窮屈になってしまいます。学校も、教室ごとに特別なものが要求され、それをつなぐ廊下があるだけの真っ黒なものが支配的です。
宮城県の追桜高校の設計の際、学校側から面積表をもらいましたが、それをそのままつくると真っ黒になってしまいます。でも調べてみると、週に二時間しか使わない特別教室とか、履修している学生が10人しかいないのに、そのための特別な設備と大空間があったりしました。それらをうまくまとめながら廊下を広くするなどして、フレキシブルな空間を獲得していくことを考えました。こうやって「黒と白」の話をすると教育委員会のようなお堅いとされている人たちにも通じるし、彼らも人に説明しやすいので乗ってくるという感じです。今日の最後にも実際にそうやってつくった住宅作品をお見せします。カタールのプロジェクトでもこの「黒と白」の話をそのままして理解してもらえましたし、海外での講演会や打合せでも使っています。
教養学部なので一階はほとんど講義室です。円形の部分は特別な講義室で、白い部分がフレキシブルラーニングエリア(以後F.L.A.)と呼んでいる空間です。これはサーキュレーョンのための空間であり、ミーティングもでき、テーブルに置かれたコンピュータを利用することもできる、まさにフレキシブルな空間です。二階は「白」の比率が増えて、小さい部屋のほとんどは先生のための個室です。それ以外はオープンリソースエリアといって、主にコンピュータを使う環境です。
カタールのBASでは、僕らはスケマティックデザインの担当なのですが、スケマティックデザインというのはデザイン、基本設計からディテールの指示にまで及びます。国際分業なので実施設計はシカゴのパーキン&ウィル設計事務所、現場監理は中近東のKEOという組織設計事務所がやっています。この実施設計チームと現場監理チームのやりとりで結論が得られない場合にだけ、僕らに質問があるという感じで、僕らはまだ合計で五回ぐらいしか現場にいかせてもらっていません。渡してしまった情報を後から変更することがまったぐ不可能なので、ルーバーの設計などはたいへんでした。光の質まで設計しようとすると1/30の部分模型までつくらないと恐くて渡せないのです。太陽の位置が違いますから強さまで再現できませんが、真上に太陽がくるということを模型で確認しながらリフレクターの位置、ルーバーの深さを決めています。トップライトの形状は壁のパターンと同じように穴を空けて、下に高さ500ミリのアルミハニカムのルーバーをつくり、太陽が真上にきたときだけ下に光がストンと落ちて、それ以外はルーバーに反射するものを考えました。しかし、詳細図をつけて渡していたにもかかわらず、シカゴのCADオペレータのミスで500ミリが250ミリになってしまい、反射が半分しかしなく、今、強力な抗議をしています。しかし、なにせメールでは迫力がない。まだどうなるかわかりません。もしちゃんと僕らの指示通りになってくれれば、壁のアルミの鋳物でつくったシェードとの間でモアレが起こったりして、幻想的で水の中のような雰囲気になると思います。
次のフェイズで設計を始めているライブラリーでは、クォイジクリスタルの別パターンで、ペンローズタイルという有名なパターンを平面に用いてみようと考えてます。一辺17メートルでできたタイル割りの真ん中にシャフトを入れてバランスを取って全部を支えます。
角度がついていることで図書館の奥まで巡り歩けるような動きもあるので、このプランニングと合っているなと思います。六次元包体を二次元に落としてできた影に単純に高さを与えて三次元に戻したら、結晶の中を歩いているような空間になるのではないかと考えています。
BASは8月末に8,800平方メートルだった面積が3万6,000平方メートルになってしまいました。そこからの正味2カ月の作業で設計をやり直し、ディテールの指示までもっていっています。こういうスピードは日本にありません。日本は遅い。自分の首を絞めるようなことかもしれませんが、北京にしろドーハにしろ、考えられないスピードを当然のように要求されて、でもやればできちゃうというのが結構ありますね。
このエドゥケーションシティーのセカンドステージでは、セントラルライブラリーとスチュデントセンターを担当して二年半後にできあがる予定です。でもプログラムの段階で二転三転し、平気で建物の面積が倍になったりします。先日もコンセプトデザインを承認してもらって帰国したとたんマスタープラン自体が変更になってしまい、敷地がどこへ動くのかわからないという状況になっています。