アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
磯崎新さんがマスタープランをつくっているカタール・ドーハ郊外のエデュケーションシティ(大学都市)の中で、ブリッジ・アーツ・アンド・サイエンス・カレッジ(以下BAS)を設計しています。アラブ圏ですから基本的な言語はアラビア語ですが、大学は英語教育で、その英語教育課程のことをブリッジプログラムといいます。また、アーツ&サイエンスは教養学部に当たるものです。イスラム圏の国カタールで初めて男女共学の大学が誕生することになります。
エデュケーションシティというのは、カレッジ単位でそのジャンルのナンバーワンのソフトウェアを輸入するというものです。アイ・ネットの建築家であるA.D.Hの渡辺真理さんと木下庸子さんがメディカルカレッジをつくっていますが、ここにはコーネル大学医学部のソフトウェアが輸入されています。いわばコーネル大学医学部のカタール分校なのです。建設の際にカタール側は、出身キャンパスによって得られる資格が差別されないことを条件としました。
このことからもわかるように、カタールでは教育を国の柱にしていこうという強い意向があるのです。BASは当初、IT分野で有名なノースカロライナ大学が入ってくる予定でしたが、9.11の影響で撤退し、テキサスA&MというビジネスITに強い大学がくることになりました。
カタールは秋田県ぐらいの面積で、総人口が約60万人のうちカタール人が約15万人。つまり、ひとりに三人の割合で雇われ外人が住んでいて、石油と天然ガスが世界中でいちばん将来まで保証されているものすごくお金持ちの国です。しかし、強い光線と砂漠と岩がほとんどを占めている自然環境の厳しい国です。今はイスラムというと妙に意味がついてしまいますが、計画が始まったのは9.11の前でしたし、僕自身はイスラムの文化がとても好きでいろんなところを旅行していました。磯崎さんに、イエメンに行って戦争に巻き込まれたときの話をしたせいかどうかわかりませんが、声をかけていただいたのです。そのくらい僕にとってイスラムでの建築の仕事は嬉しいことでした。
このプロジェクトを始めるにあたって、直射が強いところだからダブルルーフ、ダブルスキンがこのキャンパスの共通ルールにしておこうと磯崎さんから話がありました。しかし、ダブルルーフ、ダブルスキンにするにしても、どのようなダブルルーフ、ダブルスキンなのか、イスラムの人はとても気にします。それに対し、僕は抽象とか純粋幾何学(ピュアジオメトリー)とかアラベスクのパターンが、この何もないところのコンテクストだと考えました。
実際には、外壁から1メートル離れたところのパネルを設置し、その内側を黄色に塗装しました。パネルはステンレスのケーブルで上から吊られています。太陽光が差し込んだとき、内側の真っ白な壁に黄色い色がつくということを考えました。このパネルの割り方はクォイジクリスタル、日本語では準結晶、数学的には六次元包体というそうですが、その六次元包体を二次元に投射した影がこのパターンです。ある出発点から広がっていくときに絶対に同じ形を繰り返さないのがこの六次元包体の特徴です。ただ、それは三つの形だけでできているのでプレキャストでパネルをつくるには結構相性がいいのです。磯崎さんがつくるモニュメントの位置をスタートにして地面にパターンを広げて起こし絵にするとファサードができます。これは東面の朝陽の状態で、昼過ぎになると太陽が後ろに回り、夕方になると上の方がばーっとが明るくなります。パネルとパネルの間には50ミリのスリットが切ってあります。
僕自身はファサードの設計はほとんど意識したことがなくて、内部空間の組合せばかりを考えてきました。カタールでも学校のプランニングはすぐに理解してもらえて早くにOKをもらったんですが、ファサードのなさを指摘されました。ファサードもきちっと考えて、彼らが喜ぶ提案をしないと設計が認められないということをはじめて経験しました。でも、こうやってファサードもやってみるととてもおもしろいですね。