アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
最初に個人でやっているものからお話します。
瀬戸内海に直島という島があります。ご存じの方も多いと思いますが、アート活動で有名な島です。これはその島につくる新たな美術館の計画です。彼らは「地中美術館」や「家プロジェクト」などの建物をもっているのですが、もうひとつつくろうということになって、僕が担当することになりました。敷地がいくつか変わっているので今はここではないのですが、この写真ははじめの敷地です。非常に美しい瀬戸内海を望むことのできる場所です。
要望されたのは美術作品を展示替えせずに永久設置するということで、また、展示作品はふたつしかないということです。そのふたつの作品を別室に展示するのではなく、一室で展示したいということでした。ふたりの異なる美術作家の作品をワンルーム空間に展示をするという依頼にとても驚きました。僕もそれほど経験があるわけではないのですが、いくつかの美術館設計の仕事を通して、いろいろなアーティストに会っていろいろなことを学びました。全体の傾向として感じるのは、現代アートの作家というのは、あまり他人の作品と同じ部屋で展示をしたがらない、自分の作品は独立して展示したいということです。同じ部屋の場合でも自分のプライバシーをつくることができる環境を望むのですね。一部屋にいっぱいぎゅう、ぎゅう詰めになるのを嫌がります。僕としては、ひとり一室というのを基本原則のように感じていたこともあって、ふたりを一部屋に展示するというのは非常に特殊な要望だと思いました。ただ「地中美術館」の人に、建築空間と美術空間が分かれない形で一緒になっているというのが本来だといわれて、ああそういうものなんだなと思い、どうやって一体化するかということを考えはじめたわけです。
作品はその後変わりつつあるのですが、最初に考えられていたのは、ふたつの作品です。ひとつはイギリスの作家で音をテーマにする音響的な作品。もうひとつはニューヨークの作家のガラスの作品で、色をテーマにしたものでした。それで建築家である僕はこれらを統合するためにどういうワンルームがあり得るかということを考えるようになりました。
これはイメージスケッチです。こんな感じで、部屋の形を水滴型にしました。ワンルームのもっとも純粋な形として、自由な曲線で囲うのがよいのではないかと思ったんです。普通、部屋というのは壁があったりコーナーがあることで空間の奥行とか立体感が出てきます。こういう水滴のような形だと壁も天井もなく連続していくので、床・壁・天井と分節的ではない、より純粋なワンルーム、一体的な空間ができるのではないかと考えました。
基本的にはひと続きのような形なんですけれども、エントランス部分をちょっとそこだけつまんで伸ばしました。そこ以外はただぐるっと連続した空間になっています。その中にふたつの作品が距離をもって置かれるというものです。可能な限り大きな空間にしました。作品同士を思いきり離すということで、何となく別々のような一緒にいてもよいような環境がつくれるのではないかと思ったのです。
これは側面図です。全体的に低い鉄筋コンクリート造です。シェル構造という貝殻みたいな構造体です。本来、シェルというのはライズが必要で背が高くなるものですが、この場合はなるべく低く水平方向に伸び、無限定な広がりのある空間をつくろうとしました。床の構造体からストラクチャーがジャンプして上のほうを囲んでいくということです。
美術作品と建築を考えた時に、作品ふたつと建築が対等に3つ並ぶというよりは、やはり作品が中心であって、建築は背景というか環境みたいなものになるとよいなと思いました。普通の部屋に出っ張りや引っ込みがあると、非常に表現的というか、立体感が出てしまうので、壁も天井もないような全部が連続している空間をつくろうとしました。なるべく均質な空間、作品だけが浮かび上がってくる空間をつくりたかったんです。断面図を見るとわかるように、上は20センチという非常に薄い膜のようなスラブ厚で80メートルくらいのスパンを跳ばすために、床が厚い構造体になっています。
これは現在、実施設計をしています。