アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
妹島次は「京都の集合住宅 NISHINOYAMA HOUSE(2013年)」です。京都市北西部の山の麓に開発された住宅地の中にあります。元もと大きな家が建っていた敷地に、10戸の賃貸の集合住宅をつくりたいという依頼を受けました。
京都なので、屋根は寄棟や切妻など、傾斜にするルール[注1]があります。最初は、10戸でひとつの大きな屋根をつくろうと思い、全体に寄棟屋根を架けてみました。すると、周りのスケールに比べてものすごく大きくなってしまったので、分かれているけれど全体でなんとか大きな屋根らしきものをつくれないかと考えました。そこで、スケールを調整しながら屋根の分割の仕方をスタディしていきました。10戸あるので10個の屋根、あるいはそれぞれがふたつずつ屋根を持って20個、3×10で30個、各戸とも3DKで5部屋ずつくらいになるので、各部屋にひとつずつで50個……と細かくしていきました。部屋ごとに屋根を架けるといちばん屋根の枚数が多くなるのですが、それは多すぎるように感じられました。普段設計していく中で、周辺環境や風景に合わせることと、機能や使い方に合わせることの両方がうまく解けていないまま、どちらかが強い要因となって設計が決まることが多いことに気付きました。機能に合わせたか、環境に合わせたか、そのどちらかに偏りがちになってしまうのです。屋根を架けるにあたって、1戸につき屋根がふたつなら、どちらかがリビングでもうひとつは閉じたベッドルーム、3つならもうひとつは水回り、というように割り切れると設計しやすくはなるのですが、屋根の大きさが一戸建て住宅と同じ規模になってしまい、独立住宅が集まるような風景になってしまうと思いました。そこで最終的には、戸数や部屋数では割り切れない数の屋根をつくることにしました。1部屋分よりは大きく、住宅1軒分よりは小さな屋根です。1戸につき屋根をふたつにすると周りの家の屋根よりも大きくなってしまうこともあって、ひとつの家が3つの屋根の下に入っていて、3つ目の屋根は必ず隣の家とシェアするようにし、屋根の数と家の数が割り切れないかたちで繋いでいきました。そうすることで、一戸建てを10軒つくるのとは違い、個室がいっぱい並ぶというのでもない関係をつくり出せると考えました。
いろいろな住戸タイプがあるのですが、どれも庭と内部が混じり合っているような構成です。鉄骨造に木造の屋根を架けています。内部にいるといろいろ屋根が見えて、その一部を自分が使っている。窓の外に屋根なしの庭が見えて、大きな屋根の下にいることを感じながらも、自分の場所が意識できるようにしました。
[注1] 2007年9月に京都市が施行した新景観政策を基に、2011年4月には景観地区ごとに建築物の高さやデザインのガイドラインが定められ、主に低層建物については勾配屋根とすることが規定されている。