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東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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高松 伸 - 形式から余白へ
過剰な言葉をたたみかける
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東西アスファルト事業協同組合講演会

形式から余白へ

高松 伸SHIN TAKAMATSU


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過剰な言葉をたたみかける
SYNTAX
SYNTAX

いくつか小さなオフィスビルを設計しました。そのどれもが「織陣?」以降、一貫して言葉を過剰にたたみかけることによって、ある特殊な建築のあり方を目指そうと作業していた時期の作品に当たります。ディテール、形態を含めて、さまざまな過剰な表現のあり方を表しています。その一つが一年ほど前に京都の木屋町に完成した「丸東祇園」です。大阪の「淀屋橋今西ビル3」なども同じ考えの下に設計した建築です。

神戸の三宮に建つオフィスビル「HILIOS」になると、言葉の過剰なたたみかけや重層による建築のあり方とは少し趣が変わります。建築の表面が全体としてたった一つの言葉になるようにデザインしました。飛行船の格納庫などに見られる、ただ一つの言葉しか語らない、非常に単純で力強いもの、一種の「叫びのような建築」と表現することが可能かもしれません。

建築の表面は非常に大切です。そこには一種のアヤのようなものが存在します。帯地が持つ綾というとよくおわかりいただけると思いますが、そのアヤの味わいが建築にとっては非常に重要です。とすれば、そのアヤを全く拒否してしまうという建築のあり方もあり得るわけです。

SYNTAX

東京の元赤坂の鹿島建設本社ビルの真向かいに、オフィスビル「今西元赤坂ビル」を設計しました。これは過剰性をできるだけ密実につくり上げることを考えた建物です。設計のプロセスでひたすらそういう作業をしていると、一種の宝飾品のデザインに没頭しているような気分になります。そう考えると、都市の中にジュエリーを植えつけようとしているのかもしれません。

京都の北山通りに僕の設計した建築が六種あります。わずか800メートルほどの長さの通りですから、自分の作品同士が相対峙するという、非常に不幸な状況になります。

鳥取県の三仏寺投入堂は非常に好きな建築です。一種の修行の「場」です。このような奇妙な建築がときどき頭の中をよぎります。特殊な力のあり方そのものがそのまま凍結して建築になってしまったこのような建築に、たいへん興味を引かれます。

そのせいか、突然こんな建築が生まれるわけです。北山通りで最初につくった「WEEK」です。この頃を契機にして地上げと土地の投機が北山通りで始まりました。

さきほど申し上げた何ともいいようのない直接的な建築のあり方の数々が、ここでは直接的に影響しています。

SYNTAX

あらゆるディテールが建築性を帯びることが必要であると改めて考えます。手すりや窓の一つ一つが建築の全体と深く関係し、建築の全体を引き受けなくてはいけないと思います。

「WEEK」の後、同じ北山通りで、ジュエリーショップ「デルフィ」のインテリアをデザインしました。あまりにも美しいため、飾ってあるジュエリーがゴミに見えてしまうというインテリアです。家具もすべてデザインしました。

次は北山通りでの四軒目の作品、ブティックビル「OXY」です。人手に渡ったそうですが、聞くところによると最近取り壊されたとのことです。北山通りは、今でも建物の間に畑や田んぼが残っているという、なかなか侘びしいところでもあります。この「OXY」は中庭を持っています。安藤忠雄さんと中山聖君が「OXY」シリーズを設計しています。したがって、そのコンセプトを継承することが条件だったように記憶しています。しかし、そんなことは微塵も考えておりません。

私が非常に好きなアーティストに、不思議なオブジェをつくるフォートという人がいます。もう一人はレイモンド・アブラハムという実作はおそらく一つか二つしかない建築家ですが、彼らの作品から、直接的に数多くの影響を受けています。

SYNTAX
SYNTAX

北山通りで二年ほど前に完成した「SYNTAX」です。これは、未だに自分でも言葉で表現することができない建築です。したがって見ていただく以外にありません。石井和紘さんはこれを「土俵入りの建築」と呼びました。およそ考えられる限りのさまざまなディテールを開発しました。

北山通りのジュエリーショップや「SYNTAX」を含む、建築家・高松伸ツアーがあると聞きます。京都駅の観光案内所には僕の建築がリストアップされた地図が置いてあるそうです。

メックラーという、やはり実作は何もない建築家のスケッチなどからも影響を受けました。また、レオン・クリエの幻想的な建築も非常に好きなものの一つです。

次は兵庫県の尼崎市に建つ「SOLARIS」です。やはり、ジュエリーを刻み出すというか、宝石を研磨する気持ちで設計しています。何枚ものスケッチを飽きもせず描きます。そのスケッチがそのまま建築になるわけですから、考えてみると建築というのは実に怖いものです。ディテールの一つ一つが力を帯びてはじめて建築が成立します。ほとんどミリ単位が勝負で、そのミリ単位の戦いに一つでも破れてしまうと、その途端に建築は建築でなくなってしまう。したがって全部をミリ単位の図面に描いて、それを確認した上でつくるわけですから、建築の設計とは非常に貧乏な仕事でもあるわけです。

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