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東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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高松 伸 - 形式から余白へ
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東西アスファルト事業協同組合講演会

形式から余白へ

高松 伸SHIN TAKAMATSU


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形式から余白へ

建築の設計は常にプログラムを前提として展開していきます。まず、いくつの部屋が必要で、それぞれにどれだけの大きさが必要で、それぞれの部屋の関係は…、といった思考過程を辿りながらプログラムを作成するわけですが、ある意味でこうした形式的な作業に無意識によっかかってきたという意識が僕自身にもあるし、それが正しい建築のつくり方であると教えられ、信じてもきました。しかし、今や硬直化してしまったそのプログラムのあり方そのものの中に、もしかするとたいへんな可能性があるんではないかと思い始めています。それはプログラムのヒエラルキーの中に穴を探す、というかプログラムの余白を積極的に探し出して、それを拡大することで生み出せる建築の豊かさへの新しい可能性ではないかと思い始めております。これまでの正しい豊かさを作り上げるプログラムに基づいた方法から、次なる新しい可能性への移行、いわば図式的な豊かさに対する処置概念である余白、つまり積極的な貧困を形成することで、新しい豊かさを発見できるのではないかと思っております。

いまお見せしたプロジェクト以降、最近は若干こうした考え方を発展させることで、いくつか新しい計画を進めています。それをお見せします。

ある商業施設の計画では、エレメントが自由に所在している空間そのものが即建築であるというアイディアを形にしています。 小さな音楽ホールのアイディアでは、非常に広やかな葉っぱのような屋根をつくり、その屋根がさまざまなエレメントの関係の自由性を保証しております。

あるオフィス機器メーカーの研究所は、高さが七十数メートルあります。エレメントがそれぞれの完結した位置を離れて所在し始めた状態がそのまま建築になっています。片方に非常に緊密にプログラム化された空間がプログラム通りに配列されております。したがってプログラムとその余白の空間が同時に存在している建築と考えられます。プログラム化された空間が積層になり、それとは反対にプログラムのあわい、いわば積極的な貧しさを表現した空間が対峙しています。

横浜のアーバンデザイン・フォーラムにアイディアを提案し、CGビデオを制作しました。このビデオが僕の現在の気分を象徴的に表現しておりますので、お見せしたいと思います。

このプロジェクトについて考えているときに気がついたことですが、ひょっとするとそうしたプロセスというのは、かつてミース・ファン・デル・ローエが構想したユニバーサル・スペースに接近しているのではないかという恐怖に似た思いにとらわれております。いわゆるモダニズム批判というのは、ミースを筆頭とするさまざまな建築家が構想したユニバーサル・スペースへの批判から始まったわけですが、ひょっとしたら、その批判すべき、なおかつ批判してきた対象のの中に、非常に豊かな可能性が未だに眠っていたのではないか、と今さらの如く気づき始めているのではないかと思うのです。

次は全くの架空のプロジェクトで「JAL日本航空のフューチュアポート・プロジェクト」です。そのプロジェクトのために作成したビデオを見ていただきます。

ドレスデンの複合施設
ドレスデンの複合施設

次は、現在実施設計段階にある、来年一月着工予定のクラシック専用ホールです。直径55メートル、ちょうどローマのパンテオンと同じ大きさのリングをつくり、それを一種の空間的な閾と想定して環境空間を構成したものです。これについては今日仕上がったばかりのビデオを持ってきております。

今回の最後の作品ですが、現在いくつかのプロジェクトをベルリン事務所で進めております。その中で、おそらく最初に実現されるであろうプロジェクトを紹介します。オフィス、ホテル、コンベンション施設を含む、ドレスデンの複合施設です。全体で約10万m²の規模をもつプロジェクトです。

ドレスデンという街は大戦で壊滅的な打撃を受けたところですが、それでも古くて美しいものが未だに残っており、そうした歴史的なものとの関係を考慮しつつ、新しい建築のあり方を模索しています。10月に議会承認を経て、具体化できる予定です。

中央に高さ90メートルのオフィス棟があります。その中央のタワーは、ドレスデンでは四番目に高いタワーとなります。そのタワーについてはオプションを考慮するよう求められました。ドレスデン・プロジェクトのコンピューター・グラフィックスで今回の講演を終えることになります。

建築というのは、それぞれ一つ一つ違った場所に誕生します。なおかつ建築の誕生を求める思いもその都度異なります。同時に社会的条件も違います。にも係わらず、僕にとって常に疑問なのは、そうした違いにも係わらず、いつでも同じ建築が誕生してしまうことです。もちろん、そうした形によって文化なり社会性なりが築かれるわけですが、しかしそれが根本的に僕にとっては疑問であることには変わりありません。同時にその単純な疑問をできるだけ持ち続けたいと常に思っております。

いつでも同じ想いの下に、たった一つのあり得べき建築を求め続けることが可能かもしれませんが、僕にはそれができません。常に唯一の想いと理由に支えられた建築が誕生するべきであるという考えを捨てることができません。つまり、常に建築家は変化し続けるべきであろうと思うわけです。したがって、作風やスタイルといったものがいつの間にか身につき始めたとき、その時が建築家という仕事を辞めるべき時であろうというふうに考えています。いつまでも可能な限り変わり続けたいと思っています。

今日は本当によく我慢してお付き合いいただきました。心から感謝いたします。ありがとうございました

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