アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
このように多くの人が設計に参加することの必要性を認識するきっかけになったのが、公立はこだて未来大学です。ここでは、この大学の先生になるだろう人たちと行政の人たち、そしてわれわれとで計画策定委員会をつくり、設計を進めていきました。最終ユーザーである先生たちの参加は、私たちにとって、もう一度建築を考え直すきっかけになったのです。
この大学の構造体は、すべてプレキャストコンクリートです。柱は高さが20メートル、スパンが12.6メートル。8スパンあるので、100メートルちょっとの四角い箱のワンボックスの中にすべての機能が収まっています。寒いところですから、すべての機能がここに入っていることには合理性があると思います。構造計画は木村俊彦さんにお願いしました。1960年代からずっとプレキャストについて考え続けてこられた方で、2002年の建築学会賞作品賞も木村先生と連名でいただきました。
柱は95センチ角で、途中に梁がありませんから、非常に細く見えるのではないかと思います。奥に向かってひな壇状になっており、檀下の内部に先生たちの研究室や実験・実習室が、檀上に学生たちの勉強するスタジオが設けられています。
情報アーキテクチェアと複雑系というふたつの学科のある情報系の大学です。コンペではコンピュータを日常的に使う大学のあり方が問われました。コンピュータがあれば空間はどうでもいいんじゃないか、という考え方もあるかもしれませんが、私はそうは思いません。コンピュータによるコミュニケーションの技術が高度になればなるほど、人と人が実際に出会うことがますます重要な意味をもってくると思うのです。ですから、ここでは、なるべく人と人が出会えるような大きな空間を提案しました。
スラブもプレキャストでTの字をふたつ組み合わせたダブルT、みっつ組み合わせたトリプルTというスラブを用いています。梁背は約60センチ、ひとつひとつの部材の厚さは8センチ。プレキャストなので非常に薄いコンクリートが可能です。このスラブの中にテンション材が入っているのでクラックも入りませんし、長いスパンも可能です。梁同士もロッドで引っ張って圧着しているので、全体が剛になって揺れません。ちなみ12.6メートルという長さは、工場から現場までトラックに載せて道路を走る際の無理のない長さです。
スタジオの学生用テーブルは、山中俊治さんという自動車のデザイナーの方といっしょにデザインしたものです。テーブルの足の天場に穴が開いており、照明やパネルなどを差し込んで使用することができますし、テーブルとテーブルを連結させることも可能です。図書館の家具は近藤康夫さんにお願いしました。先生たちとの対話の中で、寝ころがって本を読んでもいいのではないかという話が出て、そのような家具もできました。また、ランドスケープは妹島和世さんにお願いしました。
教室と廊下の間仕切りはガラス張りです。埼玉県立大学でもこれを提案して、そのときはあまり賛同されませんでしたが、こちらの先生たちは見えるのは当然だという意見で実現しました。ここでは授業を見て面白いと思ったら、入って参加して構いません。先生も学生も自由に中に入れるということです。教えている先生も常に外から評価されます。コンクリートの壁をガラスにすることは大したことではありませんが、でもたったそれだけのことで、教育のシステムも、人と人の関係も変わってしまうと思いました。
建築にはそういうカがあります。ですからあらかじめ建築はこういうもんだ、これが最適解だと決めつけて、そのとおりにつくっていくことが最良の方法だとは思えません。その都度その都度、さまざまなアイディアが実現するのが建築です。邑楽町役場のコンペにおける原さんの問いかけの意味も、ここにあると思うのです。
コンペ時の提案では、スタジオ、教室、体育施設、管理施設が四つのゾーンに分かれていました。しかし、よく聞いてみると総工費には造成も消費税も含まれ、実際に使えるお金は想定よりも少ないということがわかってきました。また、先生方から、もっと一体化できないかという話が出てきたこともあって、ゾーンにこだわらず教室とスタジオとを一体化しました。最終的には体育館も一体化されて、すべてがワンボックスの建築の中に統合されていきました。
この建築を、このスタジオを、どんなふうに使うのがいいか、真剣に考えたことが、これだけ密度の濃い空間相互の関係を生み出したのだと思っています。建築家のアイディアだけで出来上がっていくより、はるかに面白いものになったと思っています。