アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
釜石市で復興住宅の計画に携わる過程で、悩ましく思ったことがひとつありました。それは、1階には基本的に居住空間をつくることができないということです。将来の津波シミュレーションにより、今回の大地震と同程度の地震が起きれば、市街地はやはり津波によって浸水する被害が想定されています。だから「釜石市大町復興住宅一号」でも1階はピロティとしています。僕たちとしては、街と直接繋がる1階部分は、公園のように誰もが集まれるような場所にしたいと思ったのですが、居住空間にできない1階には自ずと自転車置き場や倉庫や駐車場が並ぶことになり、寂しい風景がつくられてしまいます。
そこを何とかできないものかと悩んでいたところ、たまたま三協アルミからフェンスの設計をしてほしいという依頼をいただきました。僕は、いわゆるフェンスというものはあまり好きではなく、設計する住宅にも使わないようにしています。日本におけるフェンスは、自分の土地はここだと示すだけで、それ以上の役に立っていません。街は本来ひと繋がりの環境であると考えていましたから、それを分断するようなフェンスのデザインはあまり積極的にやりたくなかったので、最初はお断りしたのです。しかし、そういう方にこそ是非お願いしたいと、うまく説得されてしまって(笑)、僕ら以外にも何人かの建築家が選ばれて、フェンスのデザインを行うことになりました。
最初に思い起こしたのは、僕たちの世代の人には分かると思いますが、牛乳瓶が塀の上に並ぶ風景です。かつては牛乳配達がごく当たり前で、その瓶の並ぶ様が、その家の生活の様子を少し伝えたり、あるいは、人と人を繋ぐ役割を果たしていたと思うのです。家のフェンスにそこの家の生活の様子が滲み出てくるようなことが起こると、それは決してネガティブなことではなく、むしろ楽しい風景なのではないかと考えました。そこから「ringring」という名前のフェンスのデザインを考えました。フェンスの縦桟の間にリングがあみだくじの横線のようにたくさん挟まっていて、そこに植木鉢などを入れられる仕組みとなっています。フェンスの間に植木がいっぱい並んで、そのまま庭へと緑が繋がっていってもおもしろいですよね。植木でなくとも、たとえば金魚鉢や動物の餌入れになってもよいかもしれません。こう考えると、これまで隔てるものだったフェンスはお隣同士を繋いだり、街と家を繋いだりする役割を果たすことになります。
「ringring」はモックアップを経て実物をギャラリーで展示しました。また、最終的には、商品化もされています。僕たちは、このフェンスを釜石市の復興住宅の殺伐とした1階に設けるとよいのではないかと考え、寄付なり改修なり、何か実現する方法を探っています。まだ実現はしていませんが、こういうものが街にできることで公営住宅の1階がさまざまなかたちで繋がり、それがまた人と人同士を繋ぐきっかけにもなるのではないかと考えています。