アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
さらに建築から離れてしまいますが、最後にひとつイベントをご紹介します。先ほどお話ししたように、僕は復興支援の活動で建築をつくることをやっていますが、もうひとつ実はけっこう大事にしている活動に、「ポタリング牡鹿」というイベントがあります。これは、僕自身も趣味でずっと継続している自転車のイベントです。ポタリングとは自転車で気軽に散歩するという意味です。宮城県の牡鹿半島を自転車で1周し、その中で牡鹿半島の風景や人、食材の魅力に触れ、復興のプロセスを体感していこうというものです。2014年に開始しました。西田司さんが中心となってつくった「石巻工房(2011年)」という、石巻で必要になった家具などを地場産の材料でつくることのできる工房や、萬代基介さんのつくった「おしか番屋(2016年)」という漁師の方々が集まれる仕事場などを訪れ、単に観光するだけでなく、さまざまな復興プロジェクトを応援し、復興のプロセスを記憶に留めようという目論見です。なぜこんなことを考えたかというと、震災直後に被災地を訪れ、地元の人たちと話す機会があったのですが、そこでお伺いしたのは、牡鹿半島は牡蠣の養殖が主な産業ですが、なかなかもとの状態に戻るのには時間がかかるので、観光などこれまでと少し違った経済に繋がることをやりたいという切実な思いを知ったからでした。そこで、従来のように、ただハコモノをつくってから考えましょうとするのではなく、まず最初に人が集まる仕組みを考えてから、必要になったものをつくっていくような長期的な視点での取り組みが必要なのではないかと考えました。
「ポタリング牡鹿」のコースは、石巻からスタートし、牡鹿半島の先端にあるかつては信仰の山であった金華山の見える地点まで行き、さらにコバルトラインを通って帰ってくるという牡鹿半島を1周するものですが、平坦な場所は石巻の市内くらいしかなく、非常に高低差の多いコースで、「ポタリング」と言えないのではないか、と参加者からは毎年のように喜びとも苦しみとも言える声をいただいています(笑)。毎年少しずつ皆さんの意見を聞きながらイベントを育てていて、「ポタリング牡鹿2016」では、「割烹民宿めぐろ(2015年)」に参加者全員で宿泊しました。「割烹民宿めぐろ」は、Archi+Aidのメンバーである福屋粧子さんと東北工業大学の学生が改修をして再生された民宿です。夜にみんなで宴会をしながら、思いつきからのスタートではありましたが、ワークショップを行いました。将来、この牡鹿半島全体でどのような観光のシナリオが描けるかということを話し合い、素晴らしい意見がたくさん集まりました。いずれは市に対して観光企画として提案したいと考えています。
建築をつくることは大事ですし、僕自身もずっと建築をつくり続けていきたいと思っています。しかし、従来のようにただハコモノをつくるだけで街がよくなる、というのはもはや幻想だと思っています。それならば、自分の趣味を通じて、その地域にどのように人を呼び込むことができるか、その建築の前提となる仕組みも一緒に考えていくことで、街がもう少し長い時間軸の中で元気になっていくお手伝いをしたいと考えたのです。その先に、ここに宿泊施設ができたらよいとか食事処が必要だとか、そんな声が上がれば、また新しい街の姿を描くこともできるのではないかと思っています。復興は、そのくらいの長期スパンで取り組む必要があると強く思っています。