アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
だんだん建築でなくなっていきますが、小さな屋台のプロジェクトをご紹介します。岡山芸術交流2016というアートサミットが、岡山城をはじめとする文化施設や市内各所を舞台として、2016年の10月9日から11月27日まで開催されました。その中で、「小さな“テロワール”(2016年)」というタイトルで屋台の設計を行いました。関わっていたのは、京都大学の平田晃久さんと神戸大学の槻橋修さんのそれぞれの研究室と、東京大学の僕の研究室です。敷地は街の中心部にある時間貸しの駐車場です。中心部の建物が密集して建つエリアにぽっかりと空いた場所で、そこから岡山城の櫓が見えたり、隣は禁酒運動のシンボルのために大正12年に建てられた禁酒会館と、昭和のコンクリートの建物に挟まれた不思議な、でもとても魅力的な敷地でした。
元もとアートイベントとして企画され、街にさまざまなアートをちりばめて街を活性化しようと計画されていたのですが、途中から単にアート作品を置くだけではなく人が集まれる場所もつくりたいということで、企画の早い段階で相談をいただきました。その時に、屋台がよいのではないかと提案させていただき、具体的に動き出しました。今の時代、建築を社会のストックとして長く使い続けていくことは非常に大事ですが、同時に、屋台のような仮設的なものも都市にはなくてはならないインフラだと思うのです。そうでないと、たとえば今回のような敷地に建物が建ってしまうと、今見えている岡山城の特徴的な建物の姿は見えなくなってしまいます。そういった、ある都市の魅力的な断面を生かす上では、屋台しかないと思ったのです。
屋台の魅力は、建具が開けられ暖簾が下げられ、屋根だけの下に場が生まれ、人が食べたり飲んだりできるところにありますが、そういった仮設的な場のために、僕たちは屋根のあり方に着目しました。そこで僕たちは、五枚の布が重なり屋根となる屋台を考えました。その屋根はただの覆いとしてではなく、空の光や色をいろいろなかたちで拡散したり変換したりして、ここだけの空が感じられるような屋根です。屋根に用いている布は、ファブリックデザイナーの安東陽子さんにお願いしたもので、2種類の色の布を貼り合わせて1枚の布にしたものです。晴天の空や夕焼けの空、朝焼けの空などから拾い上げた色でできた屋根は、空を抽象的に切り取ったようにも見えます。そういうことで、屋台には「五枚のそら」という名前をつけました。下には人が佇める場所をつくり、キッチンスペースは周囲の風景を映し出すステンレスで外につくりました。布は時間帯により、空の色に溶け込んでいったかと思うと、次の瞬間には雲のように光ったり、ステンレスに映り込む風景と相まって実に豊かな表情を見せます。
施工は、地元のあらい建設にお願いしました。僕たちが屋台の条件のひとつとして大切にしたのは、高所作業車や足場などを使うことなく施工できるようなデザインとすることでした。ただ、僕たちの計画している屋台は高さが8メートルもあり、足場などを使わずにどうやって施工するのかは大きな課題でした。最終的には骨組みにステンレスのパイプを用いて、両端に入れたパイプの梁を各層互い違いにして、その梁間に布をピンと張ることで全体として強くなる構造にすればよいということを発見し、実現にこぎつけました。布も構造に効いているような状態です。組み立てる際には、一層組んでは持ち上げてパイプを追加していくことを繰り返す、ちょうどだるま落としを巻き戻すような要領で組み上げていく施工方法です。これは、意外と短時間で組み立てることができます。こんなに簡単につくれるのであれば、もっとたくさんつくって売り出してもよいんじゃないかと主催者に言われました(笑)。こういう屋台が街のあちらこちらにあって、人がそこで少し佇める場所をつくることができれば素敵だなと思っています。当初は台風で飛ばされないか、雨に対しては大丈夫なのかといろいろ懸念もあったのですが、意外と丈夫で、かなりの強風や大雨でも耐えられるものになりました。
週末には、岡山の地元の美味しいレストランが順繰りで出店し、ローストビーフや鴨肉が食べられたり、ワインを飲めたりとたいへん賑わいました。禁酒会館の脇でお酒を飲んでよいのかなかなか気になるところもありますが(笑)、地元のレストランのアンテナショップのようにもなって、街の観光へのよい導入にもなりました。