アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「富富話合(2017年)」は、震災直後にお話をいただいた台湾・台北市の集合住宅のプロジェクトです。ちょうど震災を経て隣人の顔が分からないことを問題に思っていたので、このプロジェクトで何かそれに対する答えが見つけられるのではないかと考えながら設計しました。台北市も東京と同じようにある程度ドライな人間関係が基本でしたから、いきなり隣の人と常に一緒にワイワイやるような集合住宅をつくりましょう、と言っても受け入れられません。台北市には大きなタワーマンションがどんどん増えていますが、元もと台湾の人びとは屋外の空間を使って楽しく過ごす、ということが上手で、それは僕ら日本人にとっても懐かしく感じる風景です。そこで、そういった台湾の伝統的な身体性のようなものを活かした集合住宅を高層建築で実現できれば、台湾の魅力でもある東アジア的な都市にふさわしい、かつ21世紀的な新しさを持った集合住宅となるのではないかと考えました。それが、周辺の元もとある風景と重なり合って新しい風景をつくり出すことができると思います。そこで、基準階平面が積層する単純なタワーを建てるのではなく、斜線制限をかわしながらボリュームをセットバックさせ各階にテラスを設ける計画としました。テラスを樹木や屋根で覆うことで、集合住宅の表面に少し涼しい立体的な中間領域ができて、そこを風が吹き抜けていきます。鉄筋コンクリート造の6メートルグリッドのラーメン構造を、鉄骨造の3メートルグリッドの屋根架構システムで覆っています。真上から見ると完全にグリッドによる均質な建物に見えますが、屋根に勾配を持たせているので全体としてはグリッドが少しずつ崩れていくような感じで構成されています。屋根は、雨水がひとつの雨樋に集中せず分散して流れるように、一定の角度の勾配で、傾きの方向を変えています。テラスと屋根によってつくられる中間領域は、そこからあからさまにお隣さんのやっていることが見えるわけではありませんが、こちらからお隣さんの様子が少し感じられたり、なんとなく中間領域を介して意識を共有できる場所であり、それによって必ずしも完全にバラバラに住んでいるわけではない、新しい都市での暮らしが提案できたのではないかと思っています。台湾ではある程度以上の高級な集合住宅だと、外装は塗装やタイルではなく必ず石を使用します。僕はこれまで石を使ったことがなかったのですが、本プロジェクトではコンクリートのようなタイプの花崗岩を使い、比較的自分なりにフィット感のあるものができたと思っています。換気のための穴を石に開けているのですが、台湾の職人は石の加工が上手く、このような石の使い方もあり得るんだということを初めて体験しました。
「富富話合」南西から見る
「富富話合」西側俯瞰。セットバックさせてできたテラスは、周辺建物のペントハウスとの親和性を持たせた
「富富話合」テラス。斜線制限に対応するためにセットバックしたことで、すべての住戸がテラスを持つ
「富富話合」エントランスホール。天井の照明も平田晃久建築設計事務所がデザインした
「富富話合」住戸。テラスの大開口から光が入り込む
「富富話合」5階平面
「富富話合」断面