アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
東京の大塚で、先にお話しした「Tree-ness House」に近い場所に「Overlap House(2018年)」という3軒の庭付き住宅を積層させたような賃貸住宅を設計しました。台北市の「富富話合」で考えていたことの延長で、自分が生きている場所全体を意識しながらそれぞれの人が住んでいるという、何か周りを引き寄せるような建物ができないかということから考え始めました。まずは、庭付き一戸建てを3つ積み重ねることを考えました。というのも、アパートを経営されていたお施主さんからは、「家賃でそれほど儲けなくてもよいから、街に緑を与えるようなものをつくってほしい」という要望をいただいていたからです。それから少し考えが派生し、庭をいっぱいつくって、Aさんの家とAさんの庭、Bさんの家とBさんの庭、Cさんの家とCさんの庭、というようにそれぞれ自分専用の庭を持っているんだけれど、それが積み重なると自ずと建物の外に緑が立体的に絡み、街にも緑の風景を差し出すことになるのではないかと考えました。全体は2.7メートルグリッドの構造体で構成され、部屋ごとに高さが少しずつ変わっていくことで、立体的なとぐろを巻くような構造になっています。一戸あたり、室内の部分が約60平方メートル、屋外が約30〜35平方メートル、全体で約100平方メートル弱となっていて、内外が連続することで一体的にひとつの広がりを持つ住戸になっています。外壁はかなりショッキングな、あまり見たことのない色をしていますが、これは僕なりにその街そのものが持っている魅力や個性を、何らかの形で描き出すような建物をつくれないかと考えたことから生まれました。周辺は美しいと言えるような街並みではありませんが、植木鉢があったり、変な庇があったり、何とも言えない雑多な心地よさを持った場所です。この感じを建物に持ち込むために、カメレオンのように、周りのさまざまな要素の色や自分の敷地の庭に生えている植物の色を受け止め、建物が染まってしまうイメージを展開することを考えました。周辺環境から色を抽出し、それをいくつかの色のスレートとしてまだらに屋根と壁に用いました。そのまだらの配置方法は、隣接している建物や環境の色等を意識しながら、また、職人さんがランダムに張っても全体の連続感が損なわれないよう、設置場所それぞれに対してコンピュータによる乱数生成アルゴリズムを使い、スタディを繰り返してブレンド具合を決めました。
「Overlap House」コンセプトスケッチ
「Overlap House」3階平面
「Overlap House」2階平面図
「Overlap House」1階平面図
街の中にあるさまざまな色を抽出、そこからスレートのカラーを選定した
それから、自然のエネルギーもできるだけ建物で受け止めたいと考えています。特に日本は雨が多く土壌も豊かなので、ある土地に陽の光や雨が降れば、必ず森になるくらいの生産力があります。建物を建てる時も、屋根に降った雨を1滴たりとも無駄にしないという思いで、植物が成長する活力となる雨や日光をできるだけ活かしたいと考えました。ボリュームで遮られて地表に直接雨が降らないところにも、水が染み込んで植物が育つように屋根面に受け止められた水を、壁ないし軒樋から鎖樋で特定の場所へ流し、その周りに染み込ませ灌水として利用しています。屋根や天井は、その上に土が載る場所なので、ワイルドにデッキプレートで仕上げ、それ以外の場所は木を用いて少し柔らかくつくっています。それぞれの住戸は、長屋形式のようにそれぞれ入口を持っており、街や庭を映して取り込むようハーフミラーのドアとしています。2階のBさんの住戸からは、上部にCさんの住戸、下部にはAさんの庭がちらりと見えます。自分の空間と庭があり、そこへお隣さんの庭や、周辺の道路、屋根等が混ざって見えることがかえって心地よい環境をつくることを意図しています。つまり、自分の建物の中だけで完結しているのではなく、外部にあるものが入ってくることでより豊かな生活になることをイメージしました。震災以前は、自然を人工的につくることばかりを考えていましたが、今回の「Overlap House」で人間がつくった環境もまた、自然みたいなものだと感じることができました。大塚の街はこれまでの長い間に、人びとが暮らしてきたさまざまな要素の蓄積がひとつの魅力ある街の雰囲気を生んでいて、その雰囲気は自然環境と遠いものではなく、人間がつくったひとつの自然のようなものだと思うのです。その人間がつくった自然のようなものを取り入れ、さらに植物等の自然とブレンドさせた環境をつくることができたら面白いのではないかと思いました。そこで、街の風景をできるだけ取り入れながらなんとなく混ざっていくようなもの、もちろん完全に周辺の街と同じようなものをつくるのではなく、建物のユニークさも主張しながら周辺と関係しているものを目指したのです。
「Overlap House」西側立面
「Overlap House」2階門扉回り
「Overlap House」House Bのエントランスを見る
「Overlap House」House Bリビングからキッチン、庭を見る
「Overlap House」断面詳細