アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
スペインのマドリードの南東に位置するガビアという公園のプロジェクトです。マドリードの北側には緑豊かな素晴らしい住宅地がありますが、丘陵地が追ってきているため、これ以上は広げられません。そのため現在は市の南側に住宅開発が進められています。こちら側は砂漠のような、あまり木が生えない土地ですので、住宅地の中に緑豊かな公園をつくろうというプログラムの下で指名コンペが行われ、依頼をされました。この公園は水の浄化システムを包含している、つまり敷地の中で水を自然浄化をさせるシステムがプログラムで求められる面白いものでした。約40ヘクタールの敷地で、今は造成のためになくなってしまった、かつてのガビア川を復活させることが課題でもあります。三角形状の敷地の両サイドがいちばん高い部分で川を復活させる谷へ向かって傾斜がついています。
われわれはここでウォーターツリーという幾何学的なパターンの浄化装置を提案をしました。ウォーターツリーの中心から水が流れ出して、葉脈のように枝分かれすることによって、その周辺にフラクタルな地形を人工的につくろうという提案です。敷地のいちばん高いところ四カ所にこのウォーターツリーを設けます。その中心には約10キロメートル下からBOD濃度約5ppmぐらいまで浄化された水がポンプアップされてきて、ここからゆっくりと先端部分へ向かって流れていきます。水は太陽に当たったり、細石層を通過したり、植物に触れながら浄化され、葉脈の先端からいったん地中に入って、さらに浄化を進めて周辺の灌漑にも使われます。一回地上に出た水は谷のほうへ流れていきますが、再びウォーターツリーに入って同じプロセスを繰り返し、2ppmぐらい、水遊びができるくらいの汚染度になり、最後はガビア川に流れていくというプロセスです。通常だと、上から入ってきた水が一本の川のようなリニアな経路をたどりながらガビア川に流れ込みますが、ウォーターツリーは「山の木」「谷の木」と呼んでいるふたつのパターンをたどるところにこの提案の特徴があります。プランで見た木の形とエレベーションで見た木の形が組み合わされてここで使われるわけです。
ル・コルピュジエは1920年代にパリ・ヴォアザン計画において、ハウジングのツリーを提案することによって周囲を緑化しようという提案をしたわけですが、われわれはウォーターツリーを植えることによって緑化しようと考えたのです。水は自然のエレメントですし、公園もなるべく自然の形態をとることが望ましいと考えられますが、あえてここでは建築のように幾何学形態をとることによって公園に強い性格を与えようと考えました。
尾根のウォーターツリーは、中心から先端まで約80メートルで、幅は太いところで8メートルぐらいあります。水は細石を入れた場所や、水中植物の繁っている部分の間をゆっくりと通過しながら自然浄化されて先端から流れ出していきます。ウォーターツリーは、子どもたちの遊び場にもなります。さらにはフラクタルな境界のウォーターツリーや、何本もの細いラインに分岐したウォーターツリーなど、いくつかのデザインを考えています。それらによって公園内部の場所の違いがつくられます。このようなウォーターツリーの提案がコンペティションの際に評価を受けたようです。実際にはウォーターツリーのまわりにいろいろなアクティビティが発生して、野外のオーディトリアムや果樹園、デイケアセンターなどの小さな建築が組み込まれることになります。
このプロジェクトはわれわれの提案以前に、水の浄化システムを含んだ公園を企画をするというマドリード市のプログラム自体が面白いと思っています。ウォーターツリーを配置することによってオリエンテーションや勾配の違いが、さまざまなビオトープ=植生を発生させるでしょう。慶応義塾大学の石川幹子さんというランドスケープの研究者と一緒にデザインを進めています。緑化は一気に生育するものではないので長い時間がかかると思いますが、ここでも「せんだいメディアテーク」のときのチューブのように、みんなで何かをつくるという一体感が生まれればと考えています。