アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
ルイ・ヴィトンの外装はいくつかありますが、自分なりに一番うまくいっていると思うのは、台北にあるルイ・ヴィトンの外装です。
台湾は沖縄と緯度がだいたい同じくらいで、亜熱帯に属するようなエリアに位置します。ですから敷地周辺はとても亜熱帯的な風景が広がっていました。これは敷地の前にある通りで中山北路と呼ばれています。台北の目抜き通りのひとつです。かなりの密度で街路樹が植えられていて、道路の反対側がほとんど見えません。
また、敷地の隣は植栽の豊かな公園でした。角地にあるこの敷地に建つ建築は、道路側、公園側、そのどちらの外壁面も木で隠れてしまうのです。このプロジェクトは古い建物の構造体だけを利用して、外装と内装を全部やり直すというものでした。私たちが担当したのは外装だけです。
ここでは孔をあけた人工石を使っています。孔は雨の進入を防ぐために樹脂で埋め戻しています。台湾の建築基準法は日本よりも不燃材料に対する規定が緩いのですが、そのおかげで日本では外装に使うことがなかなかできない樹脂を選択することができました。これは孔のパターンを一部取り出した図です。孔は正方形で市松模様状にあけています。また、孔のサイズをさまざまに変えることで、遠くから眺めた時に大きな市松模様が見えるようにしています。
そしてさらに、その大きな市松模様のサイズもさまざまにすることで、遠くから眺めた時に今度は木のシルエットがぼんやりと浮かび上がるようにしました。市松模様をどんどんスケールアップさせる、すると最初の段階や途中の段階では市松模様でしかなかったものが最終的には木に見える、そのような模様です。
しかしなぜ、木なのか。ルイ・ヴィトンのような世界的に有名なブランド店が、周りの風景を押しのけて目立っているような姿はあまりよいものではありません。強いブランドだからこそ、できるかぎり目立たない方法で新しい店舗を出現させたい、これが私の希望でした。ただし、そんなことをまさかクライアントにいうわけにはいきません。つくるものは、クライアントの立場から見て十分に商業的なきらびやかさをもつものでなくてはいけないからです。目立つものをつくることが、至上命令なわけです。
ということで、建築を目立たせたくない私と、目立たせたいクライアント、その矛盾を調整するものとして、市松と木のシルエットというまったく関係ないものを組み合わせようとしたのです。市松模様というのはルイ・ヴィトンを象徴するパターンのひとつですから、クライアントは嬉しい。私はその市松模様に木々のシルエットをオーバーラップさせることができて嬉しい。
なぜ私が嬉しいかといえば、それはそうすることで台北の木々が生い茂る風景の中に、あるのかないのかわからなような感じでルイ・ヴィトンを出現させることができるからです。つまり、カモフラージュです。ファサードは、台北の豊かな木々の中に埋もれてしまっています。物理的に埋もれているだけではなくて、木々が落とす影が柔らかな市松模様と調和して意識の中でまぎれてしまうのです。しかしながら、その肌理の違いなど明らかな差に気づく瞬間もあります。隠れているようで、見えているようで、というのはわざわざ見るのではなく、フッと目に入るような感覚です。そうした出現の仕方にすることで残像のように記憶に残る、そのような風景をつくりたいと思いました。