アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
こうして、外から見てみるとリビング的なスペースの上の階にはトイレ、その上には風呂、と縦に積み重なる要素が各階でばらばらになります。通常のアパートのように、風呂が連続していたりトイレが連続していたり、そのようなことが起きないわけです。それがすべての面で起こるのです。わかりやすく模型で四面お見せします。このようにどの面もそうした各階の違いが出ているわけです。これは都市における集合住宅の表情のことを考えるとよいことだと思いました。
通常、多くの集合住宅は何かが連続的に現れています。たとえば物干し付きの採光窓がずらりと並んでいるような面は、中の居住者全員が同じほうを向いているような暑苦しさをかもし出します。また、共用廊下の面は愛想のない扉が並んでいるだけで、全員お尻を向けているような感じになります。見られているほうは結構しんどいし、お尻を向けられているほうだって気分がよいものでもない。
こうした集合住宅らしい連続性による方向性は、昔の公団団地のように敷地に余裕があって、隣棟間隔がしっかり保たれていればあまり気になるものではありません。しかしながら、多くの民間の集合住宅は、団地からバッファーゾーンを抜き取って敷地いっぱいに建てています。そしてそれが街中を埋め尽くしている。それを見て、団地がすし詰めになったように感じるのは私だけでしょうか。
この集合住宅も都会の中にありますから、やはりすし詰め状態に参加せざるを得ません。だけど、集合住宅らしい連続性がなくなるだけで、周りとの距離感が変化するのではないかと思いました。どこかを注視している感じでもなく、どこかを完全に裏にするでもないことで、周りもまたその集合住宅も、両方ともに少し楽になるのではないかと思ったのです。周りから見て、涼しげな感じで建っている、そのような姿を目指したらよいと思ったのです。それが、階段のおかげで何とか実現できそうだとわかった時は、本当にほっとしました。
また、各階で生活の重心を変化させることができました。南側に隣接する建物は二階建てなので、一階と二階は道側に生活の重心を寄せ、三階と四階は南側に重心を寄せました。この写真は道路側の一階です。道路側に生活の重心があります。これは二階。やはり道路側に生活の重心を置きました。三階です。重心が南に移動したので、道路側は水回りになりました。四階もそうです。
反対の南側の一階です。隣接する建物には、開口部がほとんどないため、落ち着いた水まわりのスペースになっています。二階です。一階と多少のレイアウトは違いますが、こちらも、水回りです。三階、ここで環境が激変します。部屋の重心を変化させて、眺望と採光を楽しむリビングをつくっています。そして四階。南面採光と眺望とが気持ちよく取れています。非常に気持ちのよい部屋です。
こう見ていると、三階と四階がすごくよいように思いますが、道路側にリビングのある一階と二階も楽しい部屋になっています。この敷地はふたまたの道路の頂点にあるのですが、そのために一階や二階の部屋にいると、自分が交差点の真ん中にいるような錯覚すら覚えます。不思議な風景が目の前に広がっているのです。いってみれば、道路に対して縁側みたいな空間になっているのです。
一階に入居されている方は、この縁側的スペースを非常に気に入ってくださっています。非常に明るい男性の方で、少々見られでもいいや、という大変大らかな住まい方をされています。
この写真はフルオープンで撮影させていただきましたが、通常はブラインドが半分ぐらい下りている感じです。それでも中はかなり見えています。でもご本人は気にしていない。もちろんこれは、広尾界隈という非常に治安のよい場所だからこそ成立する状況です。しかし、だからこそ、こうした部屋をつくるべきかとも思います。そのことをきちんと理解し、こうして楽しんで住んでいただいているのを見ると、ありがたい気持ちになります。ちなみに二階の方はいつも100%ブラインドを閉めていらっしゃいますが、羽根の角度を調整して透けた感じを楽しんでおられます。三階の方は一階の方と同様に、なかなかオープンな方です。だいたいいつも半分くらいのブラインドをあけておられます。四階は近所の方がセカンドハウスとして借りておられましたが、あまり使われなかったようです。退去される予定らしく、新しい入居者を募集しているところです。
この集合住宅は全周がガラスになっていますが、20平方メートルという狭さを何とかするには、思い切った割り切りが必要だと思いました。全周をガラスにすることで20平方メートルという自分の限界を忘れることができるだろう、そのような気持ちでガラス張りとすることに決定しました。また、外に注意を向けるというアイデアをできる限り効果的にするために、インテリアの色はすべて淡いグレーにしています。アルミサッシュのシルバーと近い印象を与える色を選んだわけです。
こうした判断は、はたして、正解だと思いました。スペースの狭さをすっかり忘れてしまう、また、それ以上にインテリアの存在自体すら忘れてしまうような、そうしたインテリアが実現できたと思っています。
最下階の半地下は、まったく違った雰囲気にしています。この集合住宅では五戸すべての環境が違います。半地下という環境、そして階段という要素を利用して、残りの四戸それぞれの環境を変えました。しかし、それらの変化や違いを外観に直接現すことはしませんでした。中の変化が劇的なものであっても、周辺の環境の中にさりげなく出現させたい。そのように思いました。