アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
もうひとつ、内装のプロジェクトがあります。敷地は丸の内の中通りという通りに面しています。この界隈は整然とした街並みを形成していて、都庁が新宿に移転した後に、経済的な地盤沈下の時期をしばらく過ごしましたが、その後、2000年頃あたりから、少しずつ華やかになりはじめて、今では銀座に負けないくらいに立派なショッピング街になっています。その中にヨーガンレールというブランドのブティックをつくりました。
この敷地でも、やはり御殿場で考えていたようなことが気になりました。丸の内は少なくとも御殿場よりは落ち着いています。しかし、華やかなショッピング街ヘ変わりつつある最近の様子を見ていると素材が多少高級になっているだけで、結局御殿場と同じように、記号的なデザインにあふれでいることには変わりがありません。むしろ高級感という仮面をかぶっただけ、やっかいに見える時もあります。そうした中で、ここでも見えないデザインのあり方を考えました。
まず敷地である区画を、5つのスペースに切り分けました。そして、それぞれのスペースに色を割り当てました。青、グレー、茶色、ピンク、紫、となっています。その色を、床、壁、天井すべてに塗っていきました。さらに、スペースがぶつかるところは、お互いが重なり合うようなグラデーションを施しました。結果的にできたのは、それぞれのスペースが、それぞれの色の明かりで満たされているように「見える」ことでした。
この店舗を体験して楽しいのは、なぜか軽くアルコールを飲んだみたいな気分になることです。何やら、体がふわふわしているような、錯覚に陥る。色が感覚に与える影響は絶大で、たとえば青のスペースにいる時は何となく涼しい感じがするし、ピンクのスペースだと暖かい気分がする。また、グレーのスペースにいると明るい陽だまりにいるような気分になったりします。そうした気分がスペースを移動するたびに、フッと切り替わる。うろうろしていると気分が何度も、フッ、フッと切り替わるので不思議なのです。それが軽い酔いに似た高揚感を与える。その高揚感に「いつのまにか」捉えられているのです。
やはりこの店舗でも「時間」がキーワードだったのだと思います。ぱっと見て、ぱっと忘れるようなものなのではなく、いつまでも体内に残り続けるような記憶をお店を訪れる人びとにそっと充填しようと思いました。