アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
この「いつのまにか建築を変化させる」ことを考えるようになったきっかけとなる内装の設計です。御殿場にある外資系のアウトレットショッピングモールの一角に設計したアウトレットブティックです。モール全体はアメリカなのかどこなのかわからないような国籍不明、年代不明なデザインで統一されています。日本人に「アメリカっぽい」という印象を与えることができればそれでOK、という判断が見え隠れしています。ディテールが大変に甘い。つまりは、ハリボテです。
擬似アメリカの風景の背後には、さすがに御殿場だけあって富士山が見えています。ここはいったいどこなのか。アメリカか、日本なのか。しかしそんな問いはここでは通用しません。つまり、郊外のアウトレットというものは大人のための遊園地なわけで、そんなところでは誰もシリアスなことなど期待していないからです。
さて、こうした遊園地のような場所に何かをつくるというのは、拷問に近いと感じました。私はまがりなりにも建築家で、デザインのことをいつもシリアスに考えているわけですが、こうした中では何をやってもお遊びのひとつにしかならないと直観したからです。
こうした状況に対するインテリアデザイナーの態度はだいたい何パターンかに分かれます。遊園地風にぴかぴかしたデザインで安普請をごまかそうとするパターンと、白い壁を用意するくらいであきらめてしまうパターンです。また、どことはいいませんが、がんばって高級にしてみるのだけど、結局安普請がばれてしまっているという悲しいパターンもあります。この依頼がきた時に、これらのどれにも属したくないな、と思いました。なぜなら、どの選択肢もつまらないからです。そこで試みたのは「デザインを見せないこと」をつくることでした。
設計中につくったキャッシャー回りの3Dのレンダリングパースと完成後の写真を比べてみましょう。パースと写真がそっくりです。なぜそっくりになっているのか。それは、平面図上に仮想の光源を設定し、計算上求められた影の濃度で壁や什器の表面を塗装したからです。平面図上に、点光源とその光源から発する光の強さのレベルを表したのが、この図です。壁や什器を見る視点をいくつもつくって、すべてのケースにおける表面の影の濃度を調べました。影の塗装を施したのは垂直面だけで、天井や床は白いままです。こうした影の操作は、非常に微妙です。ですから、ばっと見ただけでは何をやっているのか、ほとんどわかりません。多くの人は、本当の影だと思って通り過ぎるでしょう。しかし、その影の濃さやその場所がおかしいと気づくと、光源は天井についているランプだけではないことがわかりはじめる。そして、光源があるはずの場所を見ても、そこにはランプなどない。すると突然、ただ白いだけだと思われたインテリアが、一気に様変わりするのです。
ショッピングモールではサインや記号的なデザインにあふれていて、すべてが瞬間的に理解できるようにつくられています。そして瞬間的に忘れ去られるようにつくられています。それらは俗っぽく、ぺらぺらで、子供っぽい。私はそんな環境の中で、少しだけ時聞を使わないと見えてこないようなものをつくりたかったのです。いつのまにか、影のおかしさに気づいている、そんな風にものを見る人の中に空間が現れれば、素晴らしいように思いました。そういうような現れ方であれば、それを見た記憶を消すことだって、時聞を使わないと駄目かもしれないからです。この御殿場のプロジェクトでは、そうした印象を与える、控えめというか、結果強引というか、何か不思議な距離感で人に迫っていくようなデザインを考えました。