アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
さて、こうしてコンペに参加したりしていたら、店舗内装をお手伝いしたクライアントから住宅の設計の依頼をいただきました。場所は江東区にある清澄公園の目の前でした。清澄公園は清澄庭園の横にあって、ちょっと荒れた感じの公園です。周りは準工業地域らしい風景で、工場、倉庫、マンション、アパート、住宅と、さまざまな用途の建築がばらばらに建っています。
クライアントは、仕事仲間でもあり親友同士でもある男性ふたりです。ですから、平均的な家族のための住宅ではありません。この住宅をどんなものにしたいかという彼らの気持ちは会うたびに変わりました。リビングはひとつでよいのか、キッチンはどうだ、風呂は共有するのかしないのか、ベッドルームはどうするか、などについて明快な要望が全然出てこない。何度も案を出し、延々と彼らと対話しているうちに「そうか、彼らはとにかく、いつまでも決めたくないのだ」ということがわかってきました。しかし、これは大変です。しかし大変だとあせると同時に、彼らがおそらくは無意識に大切にしているその決めたくない気分を、何とか保存するような方法論はないかと思いました。
敷地は細長く、それに沿って建物の形も細くなっています。そうした細い平面をざくざくと切り分けることをしてみました。そして、切り分けたライン上にある壁の中に、構造の門型フレームを内蔵させました。したがってこれらの壁が水平力を負担する必要はありません。そのため、壁にどのような開口部をあけることも可能です。そうしたことを利用して、各階で違うプランニングにしています。
ざくざくと切り分けたラインに出てくる開口部の大きさはいろいろです。大きかったり、小さかったりします。開口部が非常に大きいと、周りに残った間仕切り壁は壁としての印象がなくなります。よくある柱型や梁型くらいにしか見えません。開口部が小さいともちろん間仕切り壁は間仕切り壁らしく機能しますし、そうした印象を残します。開口部という要素は同じでも、その大きさや比率が変われば意味がまったく変わってしまう。そのことを利用しようと思いました。
大きく関口部をあけて間仕切り壁を無視しているところをつくったり、小さい開口部を設けて間仕切り壁を間仕切り壁として利用するところもあったり、と間仕切り壁は何ともいい加減に使われています。そうした方法で各階を、緩やかにプランニングしました。
一階はふたりのために一台ずつのパーキングスペース、それと玄関です。二階は小さい部屋をつなぎ合わせて大きな部屋にしたり、小さいまま使ったりしています。右手側には籠もるようなスペースを欲しがっているほうの方の個室があります。三階は3つ分の小さい部屋をぶち抜きで使って、キッチンテーブルを置いています。しかしその右隣の階段のあるスペースもほとんど一体化している感じです。右のふたつの部屋は水回りです。四階は何となく小さい部屋ばかりなのだけど、ワンルームともいえるものにもなっています。五階は小さい部屋をつなげたり、つなげなかったりしています。
と、このようにすべての階がいろいろです。最初に設定したざくざくと切り分けたラインを使ったり使わなかったりして、いろいろなサイズの部屋をつくっているわけです。
つまりは、いったん部屋の名前がつくくらいまでには設計していますが、だからといって部屋名がつく理由になる境界線としての壁と、そうでない壁との間にはあまり差がないのです。いい換えれば、自然な意識のうちに変更できるくらいの差になっています。はたしてクライアントは気に入ってくれたようです。一応今のところ、この二階と三階はひとりの方がメインに使う部屋。四階と五階がもうひとりの方がメインに使う部屋となっています。インテリアの色は、下から上に、色が濃くなるようにしようかと考えています。通常、都市住宅は、昼間は下の部屋は暗く、上の部屋は明るくなるわけですが、そのように都市部で自然に生まれる部屋の明るさの差異を、インテリアの色で相殺してみようと思いました。二階は白っぽい色、三階、四階と濃くなっていき、最上階は濃いグレーです。これによって、少なくとも昼間には各階のどの部屋も同じような明るさになるはずです。それは、建物が建て込んだ都市部ではなかなかない状況です。そのなかなかない状況をつくることで、この建築が都市にあることの印象が薄れていく可能性があるかと思いました。
外観は何てことのないものになっています。周辺の風景の中に埋没するようなものにしたいと思っています。この住宅のアイデアは、壁と天井と開口部というそれだけのシンプルな要素だけでできており、その意味では十和田のコンペ案を変形させたようなものかもしれません。十和田のコンべでは、ロビーなどの空間と展示のための空間を滑らかに連続させることが意図されましたが、この住宅ではすべての部屋同士を滑らかに連続させることで、クライアントふたりの暖昧な気持ちを建築に定着させようとしているのだと思います。
また、nLDK に対する疑いが一般的になり、ワンルーム的に住宅をつくるケースも多いと思いますが、ここではワンルームなのか普通の nLDK に属するものなのか、どちらなのかよくわからないものになっています。これであれば、ワンルームと nLDK という二項対立の構図からはずれたフィールドにいけそうなので、面白くなるような気がしています。うまくいくとやっていることが、つまり、デザインによる操作がぱっと見てわからないものになるはずです。そのあたりの設計の手法は、インテリアの設計でやっていたことと連続しているようです。
この住宅はただいま確認申請の途中です。冬には着工する予定です。