アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「金沢21世紀美術館」外観俯瞰。
妹島本日は「環境と建築」というテーマでお話しさせていただきます。
私は、ひとりで事務所を設立して建築を始めて30年、西沢と一緒に事務所を開設してからは25年くらいやっていますが、当初からずっと、建物の内部と外部を繋げるような建築をつくりたいと考えています。それはたいへん難しくて、これまで手掛けてきたプロジェクトごとに、少しずつ考えを展開させてきました。私と西沢はお互いSANAAとしてだけではなく個人でも作品をつくっているので、それぞれに微妙に異なるところはありますが、ふたりで別々につくったものと共同でつくったもの、両方を交えながら説明させていただきます。
「ROLEX ラーニング センター(2009年)」は、私にとって多くのことを考えさせられた建物でした。「金沢21世紀美術館(2004年)」の完成直後である2004年にコンペが始まりました。「ROLEX ラーニング センター」のコンペで求められたものは、「新しい学ぶための場所」でした。主な機能である図書館を、さまざまな形で勉強できる場所にして、人びとが出会い、考えが発展するように、できるだけ多くのプログラムをワンルームの中に柔らかく成立させようと考えました。
「ROLEX ラーニング センター」外観。
「ROLEX ラーニング センター」光庭を見る。
「ROLEX ラーニング センター」配置
周囲から人がアクセスしやすいように、多層ではなく一層のボリュームを中央に置きました。それは、「金沢21世紀美術館」と同じ配置と言えるのですが、「金沢21世紀美術館」よりも建物の平面が大きいので、建物内に入った後もウロウロと迷ってしまう恐れがあったので、ボリュームを持ち上げ、そこをくぐると自然と敷地中央までアプローチでき、そこにエントランスホールを設けました。そうすることで建物に入る際に、端っこから入るのではなく、中央から入ることが可能になります。建物中央のエントランスから建物の中に入り、内部は大きなワンルーム空間となっていて、自由に行き来ができます。建物内部は一層で、空間を分かつ壁はそれほどありませんが、その代わりにふたつの丘をつくり、また、いくつもの中庭を挿入して、丘と中庭とで空間を柔らかく分けています。ふたつの丘によって平らな場所が3つ生まれ、平らな場所と丘が連続することで、床が上がったり下がったり、起伏を感じる空間となっています。柔らかく変化する地形を利用して、多目的ホールやオフィス、カフェ、レストランなど、さまざまなコーナーを設けています。
構造は、佐々木睦朗さんとの協働です。緩やかにカーブする床は鉄筋コンクリート造として、その上に鉄骨と木造でつくられた屋根が架かる構成です。鉄筋コンクリート造の床は、曲面シェルの形態解析を行ない、レストランや図書スペースのある大きなシェルでは、厚さ60cmと80cmのスラブで、高さ6.1m、最大87mスパンの緩やかなカーブを描く床をつくっています。内部のワンルーム空間では、丘の向こう側は見えないのですが、床がどこまでも続いているので空間の連続性を感じることができます。先が見えず、進むたびに自分の場所ができ上がっていくような印象を受けます。
空調設備に関しては、6.5mほどの緩やかな高低差を利用し、低いところにある中庭の窓から涼しい風を取り入れ、高いところの中庭の窓から暑い空気を逃がす自動制御による自然換気を行っています。また、併せて湖水を利用した冷輻射空調天井を部分的に用い、それらによって年間を通してエネルギー消費量の少ない計画としています。
「ROLEX ラーニング センター」2階平面
「ROLEX ラーニング センター」1階平面
「ROLEXラーニングセンター」断面ダイアグラム。
西沢とても大きなワンルームの建物ですが、形状が柔らかく緩やかに起伏していることで、建物内のいちばん深い中心に立ってもなお、近接するレマン湖や既存キャンパスが見ることができます。街とキャンパスが持っている方位(オリエンテーション)の感覚と同じものを室内でも感じられるようにすることで、中と外との連続感をつくろうと考えました。建物内で2番目に高い丘は図書室です。丘の形状と屋根の形状は並行関係にあって、つまり屋根がドーム状になり音が拡散しない効果を持つため、図書室には適した形となっています。
「ROLEX ラーニング センター」エントランスホールより貴重図書コーナーを見る。
「ROLEX ラーニング センター」カフェから図書室側を見る。
「ROLEX ラーニング センター」図書室から光庭を通してエントランスホールを見る。
妹島いちばん高い丘にはレストランを設け、そこからレマン湖を一望することができます。また、600人程度を収容できるホールは、直結したエントランスを持つのでホールを単独で使うこともできます。このようにさまざまなプログラムが、地形や中庭によって緩やかに分けられつつ、また、有機的に繋がっています。