アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
妹島最後に、豊島や直島の近くの犬島という島の、「犬島『家プロジェクト』(2008年〜)」をご紹介します。これは犬島の集落の中に、日常生活とアートが一体となった新しい風景をつくる取り組みです。
「犬島『家プロジェクト』F邸」北西側から見る外観。
「犬島『家プロジェクト』F邸」ギャラリー。
このプロジェクトは、「何かひとつの大きな美術館をつくるよりも、集落に点在する空き家をアートで再生して、島全体を力付けることはできないだろうか」という福武さんの問いかけがきっかけとなっています。集落全体を美術館と感じられるようなものにするとよいのではないかという考えからスタートしました。初めは何から手を付ければよいのか、いろいろ迷いました。
「F邸(2010年)」の敷地は、石の神様が祀られている山の神社の足元です。石の神様を祀った神社や石段があった「石」に関連した敷地だったので、石を積み直して、石と木造が混じり合ったものにしようと考えました。私にとってリノベーション自体が初めての挑戦だったのですが、古い材料と新しい材料の調和、古いものは磨いてきれいにして新しくして、全体として古いのか新しいのか、あまり分からないものをつくりました。
もともと民家だったものをギャラリーとして使うため、室内の壁を取り払って、アートのための大きな空間とする必要がありました。しかし、壁を取り払うと耐震要素がなくなってしまいますので、建物の外側に、壁が囲まれた庭を両側にふたつ付け足して、それらを耐震壁にすることを考えました。耐震壁で囲まれた庭の内側は鏡面のアルミニウム仕上げにして、反射するなんかでアートを楽しむことができます。壁が取り払われた建物の中は、柱のみが落ちている透明で広いギャラリーの空間ですが、アートを展示室の中で見るというより、アートと島の暮らしと集落の雰囲気が混じり合ったものを、その場所で体験できるようにと考えました。
「犬島『家プロジェクト』S 邸」西側から見る外観。
「犬島『家プロジェクト』S 邸」ギャラリーに展示されたアート。
「犬島『家プロジェクト』A邸」北西側から見る外観。
「犬島『家プロジェクト』」東から手前に「S邸」、「A 邸」を見る。
次は、「S邸(2010年)」です。ここにもともと建っていた建物は、ほぼ完全に崩れてしまっていたため、新たに再建する必要がありました。新しい材料としてアクリルを採用し、アクリルを構造材としたギャラリーをつくりました。初めは、大きくカーブする道に並行するようにアクリルを緩くカーブさせた細長い建物を考えていたのですが、道のカーブはかなり曲率が緩いので、それに合わせてアクリル壁を自立させるためには、アクリルがかなりの厚さになってしまい、金額的にも、存在としても、かなり大きなものになってしまいそうでした。犬島には大きなフェリーが着く港がなく、つまり、島内に自動車がほとんどないので、大きな材料を人力で運ぶのには無理があるという現実もありました。そこで、アクリル壁を曲率の強いカーブにして自立できるようにすることを考え、結果、アクリルの厚さを80mmから半分の40mmとすることが可能となりました。ここで初めて、この静かな集落では、ほぼすべての建材が人力で運べる軽量な材でできていることに気付きました。道路線形に合うような大きなカーブではなく、人間スケールの小さなカーブの方が、この集落に合っているのです。人間スケールの建材でつくるという、あるリズム、秩序を保っていれば、たとえ材料が異なっていたとしても、犬島の風景との調和をつくっていけるのではないかと考えました。
「犬島『家プロジェクト』C邸」南東側から見る外観。
「犬島『家プロジェクト』C邸」内観。
次の「C邸(2013年)」は、空き家を改修したギャラリーです。この建物は大きなお屋敷で、しっかりしたつくりだったので、部材もお起きが健全で、骨組みや瓦のほとんどを再利用することができました。既存の構造体をより安定した構造にするために、各所に貫を入れて、その代わり建物外周部の多くは取り外し可能な雨戸として、半屋外化することもできるような、開かれた木造建築としています。展示作品によっては、真っ暗にしたり、落ち着いた光の入る土間のような空間にしたり、変化を付けることができます。
最後の「I邸(2015年)」は空き家を白い空間のギャラリーへと改修しました。これも一度解体して、ほとんど部材をそのまま残し、さらにふたつ新たに大きな窓を対角に設け、中と外を繋ぐことを考えました。
ここまでがいわば第一フェーズの、小さなギャラリー群の説明です。それぞれの敷地で、集落とアートが混じり合ったようなものができ上がってきたのではないかと思っています。しかし、次々とこれらのギャラリーをつくっていく中で、訪れた人がもう少しこの島で留まることができれば、さまざまなコミュニケーションがさらに発達するのになあ、と思うようになりました。そこで、第二フェーズとして、人びとが滞在できるような場所をつくるプロジェクトを現在進めています。
「犬島『家プロジェクト』I邸」南側から見る外観。
「犬島『家プロジェクト』」配置
犬島は、今挙げたギャラリーを巡るくらいであれば、ほんの20〜30分で回ることのできる小さな島です。島の外周部も3キロメートル強ほどで、1時間あれば歩くことができます。ですから、ギャラリーだけ見終わってしまうと、みなさん他にやることがなくなってしまい、なんとなく次の船を待って帰ってしまうのです。それではもったいないので、人びとが島でもう少し長く滞在して、時間を過ごせるような工夫を考えられないか、と思うようになりました。
まず初めに、少し離れた位置にある古い温室とその敷地を改装し、島での暮らしを考える場「犬島 くらしの植物園」をつくろうということを思いました。ニワトリ小屋をつくってそこでニワトリを飼い、水を浄化するシステムをつくり、さらに発電も行ない、サステナブルクショップができる場所もつくって、人びとが集まれるようにしました。このあたりから徐々に、「だったら島全体を使ってみたらどうか」、「それぞれの場所を美術館と考えるよりは、島全体を建築だと考えてもよいのではないか」というような気運が島の中で高まっていって、2〜3年前から学生たちと一緒に、島の手入れやワークショップをやっています。
また、もうひとつ考えたのは、島に宿泊施設をつくる「犬島ステイ」という計画です。空き家一軒を改装しようとするとお金がかかってしまうので、空き家に付随している小さい納屋を改装して、ベッドが1〜2個あるだけでの簡単な寝るためのスペースをつくり、観光で訪れた人びとが島の中で宿泊できるようにしました。同時に、みんなでシェアできるダイニングキッチンやお風呂を1ヵ所つくろうと考えています。そこは、夜はみんなそれぞれベッドに寝に帰るけれど、朝になるとまた戻ってこられるような公共の場所で、いわばマーケットや集会所のような、来訪者と地元の人びとが触れ合って、交流できる場所になるとよいなと思っています。季節のよい時期には、浜辺や山でで遊んだりのんびり寝たりできるので、島全体がホテルや自分の家、学校のようになります。
「犬島ステイ」で建設した宿泊施設。
島に宿泊施設をつくる「犬島ステイ」という計画があります。空き家一軒を改装しようとするとお金がかかってしまうので、空き家に付随している倉庫を改装して、ベッドが1〜2個あるだけの簡単な寝るためのスペースをつくり、宿泊ができるようにしました。島が小さいので、ちゃんとした宿泊施設をつくらなくとも、みんなでシェアできるダイニングキッチンやお風呂を一カ所つくっておけば十分だと考えました。そこは、夜はみんなそれぞれベッドに寝に行くけれど、朝になると戻ってこれるような場所で、いわばマーケットのような、来訪者と地元のおじいさんやおばあさんが触れ合って、野菜などを交換できる場所になるとよいなと思っています。季節のよい時期には、浜辺や山の中で遊んだりのんびり寝たりできるので、島全体がホテルや自分の家、学校のようになります。共用スペースの大きさを具体的にどれくらいにするかについては、現在学生たちと一緒に考えているところです。
「犬島ワークショップ」配置
「犬島ワークショップ」道の回復の様子。
「犬島 くらしの植物園」外観。
その他にもいろいろな活動をしています。学生たちと共に、草が生い茂ってしまった道を回復したり、大きく育った竹を伐採したり、もともとミシン工場だった施設も改修して、集会所としました。また、島でいろいろなワークショップを催しているのですが、たとえば一度「I邸」で展示をしていただいた小牟田悠介さんを先生として招待して、油絵を描きながら島の記録を残すという油絵ワークショップや、料理のワークショップをやったり、他にも、ランドスケープの専門家と共に、この島の植物の将来を考えようという取り組みを行うことも考えています。
このように、少しずつ自分たちで島の建築や環境をつくりながら、島の未来を考えていこうとしています。