アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
西沢山形県鶴岡市の地域の文化芸術活動拠点となる文化会館の建て替え「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)(2017年)」です。鶴岡市は歴史的な低層建築がいくつも残り、静かで美しい街です。その中心部に建つ旧市民会館は、鶴岡市民にとても愛された建物です。このプロジェクトが始まった時に、鶴岡市民なら誰もが一度はステージに立ったことがあるくらいにみんなに使われてきた建物だ、と聞きました。既存ホールには19メートルのフライタワーがあったのですが、建て替え時にはそのフライタワーをさらに大きくして、30メートル級にすることが条件としてありました。敷地のすぐ隣には、致道館と呼ばれる庄内藩の藩校であった歴史的建造物であり、また、住宅地にも隣接する土地です。大きなフライタワーの大ボリュームの威圧感と周囲の低層の街並みをどう繋げるかということが一つの課題となりました。ここで私たちが考えたのは、周囲から一番遠い敷地中央部分に巨大なボリュームとなるフライタワーを配置して、フライタワーの周辺に下屋のような形で屋根を付随させて、屋根が外周に向かって低くなり、道路沿いでは平屋となり、それによって隣接する致道館や周辺の住宅を中心とした街並みとの調和を目指しました。このホールの魅力のひとつは、「地域のためのホール」というもので、市民の人たちが鑑賞者となるだけでなく、ステージに立つ演者にもなるというところでした。そこで私たちは、中央の大ホールを回廊空間で包む鞘堂形式を採用して、普段は舞台裏もすべて連続するような、表裏のない空間を提案しました。回廊は日常的に市民に開放され、表裏なくいろいろな場所で活動することができます。また特別な公演の際には、回廊を可動間仕切りで表と裏を区切ることも可能です。
「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」北側俯瞰。
「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」北側から見る。
妹島敷地と致道館との間に、もともとスチールの塀があったのですが、市と文化庁と議論して、撤去できることになりました。。そうすると、ホールと致道館が景観として連続し、街の人にとっても初めて、ホールと致道館がそれぞれの場所からのお互いを眺めることができるようになりました。。このように、地域で一緒になってこの場所をつくっていきました。
「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」エントランスホールより致道館の庭園を見る。
「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」ワインヤード型ホール。
西沢大ホールは1,120席で、ステージで客席の一体感をつくるため、奥行きをなるべく浅くしています。ドイツの建築家ハンス・シャロウン(1893〜1972年)が「ベルリン・フィルハーモニー・コンサートホール(1963年)」で用いたワインヤード形式という、ぶどう畑が段々に連なるような客席形式があるのですが、それを用いて、幅が広く奥行きが浅いホールとしています。各客席テラスがみんな違った形をしていて、客席ごとに場所の違いがあって、毎回違う席で鑑賞したくなるような多様さがあります。ステージから見てもシンメトリーではなく、演奏者目線からしても、客席が機械的な反復ではなく、人間的なもに見えます。ワインヤード形式と呼ばれるもうひとつの理由は、各客席テラスががおのおのかいだんで繋がれていることです。いちばん奥の高いところの2階席からステージまで、ホール外に出ずにそのまま降りてくることができます。アンコールなどの時に、観客が客席から降りてきて、そのまま演奏者を囲むことができる、一体感のあるホールを目指しました。
「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」平面
「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」断面
妹島ワインヤード形式のもうひとつのよいところは、音響です。各客席テラスが腰壁で仕切られているため、その腰壁が反響板として働き、よりより音環境を実現することができます。実際に座ってみると、音はよいですし、各客席テラスはおのおの小さなグループとなって、プライベート性も感じられます。また、形や位置が場所によって違っていて、コンサートの度に今度は違う席に座ってみようかなと思えます。