アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
FLUID=フルイドは流体です。気体というよりは液体に近いニュアンスですから、空間の話をするのに疑問に思われるかもしれません。たとえばこのホールの中に皆さんがいて家具があってアクティビティが入っています。これを手で触れるような形で取り出すため、水を流し込んで瞬間冷凍し、回りの型枠を取り外すと、透明な固まりの中にアクティビティとか家具が入っている状態のものが取り出せます。そのイメージがもともとのスペースブロックの考え方です。シーラカンス時代の元パートナーである日色真帆は、金魚と水と藻が入っている金魚鉢の状態から金魚鉢だけを消したようなものと表現しました。僕にとっては空間を空気のまま扱うのではなくて氷として捉えると、割とハンドリングできるイメージがあるのでフルイドという言い方をしています。
CFD(COMPUTER FLUID DYNAMICS)での流体解析はフルイドを使っています。それでどういうダイレクションが可能か、流動性をどうシミュレートしていくかという事例があります。
「千葉市立打瀬小学校」の入学式での体育館から教室に移動する子どもたちの動きを点に還元して、コンピュータで動画化したシーンです。一クラス20人で、300人ぐらいが動いている状態です。住宅の中も4人ぐらいまでなら同時に動いているのを自分の頭の中で想像するのは何とかできますが、1,000人ぐらいのアクティビティになると無理です。一斉画一型と言われている集団行動をきちんと見直そうという事例です。建築計画学で学んだ廊下の幅では面白くないというのが僕たちの考えです。
8時25分頃の登校時間のアクティビティを設計前に調査しました。ある学校で朝、子どもたちがどのようにやってきて、先生が来るまで教室でどうしているかを観察しました。僕らは新しいプロジェクトを始める時には相当量の調査をします。歩道や校庭側から子どもたちがやってきて、靴を履き替える昇降口で立ち止まりますが、そのあとの動きを見てもまだ教室がどこにあるのか分かりません。オープンスクールなので荷物を置いたあと、いろいろな場所に行って友だちを見つけておしゃべりをしたりしています。普通の歩行者も歩道を歩いているのが分かります。だんだん先生が来る時間が近づくと教室に戻っていく様子がゆっくりと表れてきます。
当時の技術ですから300人分の情報を手入力でやるというたいへんな作業でした。人の分布を等高線状に描くことは可能です。天気図と同じような等高線で、それをアクティビティカンター(活動等高線)と呼んでいます。こうしたイメージで、朝のホームルームで集まった後に全体に散らばっていくように設計できたら、それがうまくいったということだと考えています。
「ハノイ・モデル」はスペースブロックの手法で設計した実験集合住宅です。CFD解析は東京大学生産技術研究所の加藤信介先生の研究室に協力していただきました。風を与えた時の空気齢の分布図です。普通に何も考えずに風を与えると赤色の濃い部分ができます。濃い部分は空気齢が高いということで、空気齢が高いということは換気されていない、風通しが悪いということです。それに対して空間の積み方を変えたり、あるいは窓の開け方を変えてシミュレートしていくと、濃さが改善されるということが分かります。窓を開けた状態と閉めた状態の両方のシミュレーションを行います。風向きやどの断面で切るかにもよって違うので、モデルの空間を組み換えてはCFD解析をします。解析によって形ができるわけではなく、毎回こちらがつくったかたちを解析するのでたいへんです。ベトナムは細い敷地の町家が多く、70から80メートルの長さがある建物などもあるのですが、どんづまりの中庭でもちゃんと風が動いていることが現地の人にも分かってもらえ、感心してくれました。このプロジェクトでコンピュータ解析のありがたみを感じました。
次は音のシミュレートです。東京大学生産技術研究所の音響工学の研究室と協働によるものです。音源から出た音がどのように反対側の教室に伝わるかを表しています。空間を5センチのキューブに切り刻んで、それが詰まっている空間をコンピュータに入力します。それに対して音を発生させ、音の波がキューブごとに通っていってどう反射するかのシミュレーションです。キューブを10センチとか20センチにすればもっと簡単にできるように思いますが、音には波長の長さがあるので、5センチでないとだめなのです。CFD解析と似ているように見えますが、変数が違います。
ノイズがあり過ぎるのと、ザワザワした人の気配はあるけど嫌な感じがしない音との違いは、目で見えるものと同じように空間を感じる時の重要なファクターです。エアコンの風が直接吹いてくる席に座っていたら、そのレストランの食事がつらい思い出になるというようなこともあります。そういったことを全部ハンドリングしていくのが、微分的な手法なのだと思っています。微分したものをレイヤーにして重ねていくやり方が「集積回路」と言えるかもしれません。
僕の事務所はパートナーシップで仕事をしています。シーラカンスとして始まってから、C+A、さらにCAtと、分裂ばかり繰り返しているように思われていますが、その都度コラボレーションしていることが多いのです。たとえば「迫桜高校」は三瓶満真とのコラボレーションでしたし、最近の海外の仕事では磯崎新さんや山本理顕さん、ハノイ建設大学の先生や、ローカルアーキテクトの人やコンストラクションマネージメントのチームなど、いろいろな人たちと一緒に仕事をしています。そういった人たちと、どのようにうまくやっていくかということが設計作業のかなり重要な部分を占めています。でも僕はひとりでやるより誰かとコラボレーションした方が面白いことがあると思っています。
さてここからは、今までにお話しした四つのセオリーをどのように作品に応用しているのかを見ていただきたいと思います。