アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「ユニバーシティ・オブ・セントラルアジア」というプロジェクトで、磯崎新さんに声をかけてもらって大学を設計しています。中央アジアの三国、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの国境地帯で天山(テンシャン)山脈が望める場所です。三国に二学部ずつのキャンパスをつくる計画で、その全体が「ユニバーシティ・オブ・セントラルアジア」と呼ばれることになります。 延床面積は各8万平方メートル。ここに全寮制の1,000人の大学をつくる計画です。材料をどうやって運んでくるかということから考えなくてはなりません。しかもこんな自然の中だと、鉄とガラスの建築をつくっても景観破壊にしかなりません。ここは標高2,000メートルほどで、冬になると気温はマイナス20度にもなります。だからすべての建築を室内で繋いでいます。8万平方メートルですから、幅約20メートルとして長さが3.4キロメートルになります。それが単純なループだとするとA点からB点へ行くのに、最大1.7キロメートル歩かなくてはいけない場合があり、これではあまりに不便なため、近付けたいところを析り畳んで重ねるという、僕らがネックレスと呼んでいる方法を用いました。こうしてたくさん畳んで必要な学生寮やレストラン、図書館などを配していきます。
あまりに周辺の山が高いので、直近ではない遠い山が影を落すというデータも出ました。敷地の中に活断層が三本通っているという問題もありますが、冬になると一日中日陰になってしまうので、広い敷地の中で逃げ回るように配置を検討している状態です。最終的にもネックレスを使っていますが、全部がサーキュレーションになっておらず、ランドスケープと混ぜ合わせたような形にしています。
夏のアウトドアのアクティビティに応答する開いた空間と、寒い冬の閉じた空間の両方に対応するためにリバーシブル空間のコンセプトをここでも使おうと考えています。基本的に、可能な限り冷房をしないという前提です。開閉可能な窓を、夏は開けっ放しにします。
ドミトリーとかステューデントライフというゾーンは、「黒」だらけの窮屈な空間にならないよう考えています。あまりにキャンパスが広いので、逆に歩かせることで息が詰まるのを防止しようという考え方もしています。いちばん近い都市である首都のビシュケクまで行くのに六時間もかかるような場所です。大学生活の中では、ガールフレンドに振られることもあるでしょう。そんな時にコンパクトなところにずっといなくてはいけないのは苦痛だろうし、距離はすごく大事な問題だと提案しています。でもアメリカの合理主義の人たちはそんなのは重要じゃないと言い、ずっと論争しながらやっています。とんでもない敷地ですが、このままいけば2008年の冬には一期工事が終了します。
建築を設計していく時に直感はもちろん大事です。でも一方で、それが幸せな空間になるためには、いろいろなものを取り扱わないといけませんし、特に固いものではなくて柔らかいもの、流れているもの、流体や空気のようなものをハンドリングしながらオーバーラップさせていかないと新しい次元のものはできないと思います。小さいプロジェクトでも、何かやり始めると切りがなくなります。それが「フルイド・ダイレクション」です。
でき上がったあとそこに自分の体を置いてみて、そこにいたいと思うものをつくりたいと思っています。「集積回路」と言うと「モノ」に即した固いもののように思われるかもしれませんが、そうではなくて、いかに小さいチップの中で複雑な信号を流すかが問われています。それを組み立てていく時の、小さな部分から全体をつくるような思考の仕方をお伝えしたいと思ってお話ししました。