アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
カタール・ドーハ郊外のエデュケーション・シティ(教育都市)の中にあります。英語教育の学校で一年間は予備課程を英語で勉強します。アーツ&サイエンスは教養の意味です。当初はITの名門校のUNC(ノースキャロライナ大学)が運営する予定でしたが、設計の途中で9.11があって撤退してしまいました。今は石油関係のテクノロジーで世界一のテキサスA&Mという学校が暫定的に運営しています。ARATA ISOZAKI & I-NETとの初めてのコラボレーションです。
カタールは中近東の砂漠の国なのですごく遠いと思われていますが、関西空港から直行便があります。○泊三日でサッカー観戦のツアーもあるぐらいで、現地デイタイム1日でジャスト48時間で往復できます。ですから遠い国だと思わないで、面白いと思った人は行ってみて下さい。学校ですからアポイントを取れば見せてくれます。
石油と天然ガスが人口ひとり当たり世界一ですから、お金持ちの国です。カタール人に生まれただけで二十歳になれば家を建てる土地はもらえるし、光熱費も教育費も医療費もタダ同然です。カタール人15万人に対して、カタール国籍を持つ人が5、60万人なので、カタール人ひとりにつき3、4人の外国人がいるということです。実際には建設労働者などの国籍を持っていない人も山ほどいます。日本に生まれると相当に成功している人でも自分のことは自分でやりますが、こういった国に行くと車には必ず運転手がいますし、空間があれば必ず掃除をする人がいます。
屋根には、トップライトとアルミのルーバーが架かっています。一年のうち三日が曇りで残りはカンカン照りという気候ですが、何年かに一度豪雨があるので防水を施さないわけにはいきません。とても乾いた土地のように見えますが、掘ると1.5メートルぐらいで水が出てきます。外壁のダブルウォールの内側を黄色に塗っているので白い壁が光の反射で黄色くなります。
プランは四角形で、FLAと教室、ウインドタワーが建つ六つの中庭、円形の三つのレクチャーホールで構成されています。吹き抜けのパターンはイスラミックな形を考えました。丸いレクチャーホールは校舎内でのオリエンテーションになるよう、どのFLAからも見えるようにしました。ゾーニングは単純で、大人数のアクティビティが下階で、少人数の穏やかなアクティビティやパーソナルなアクティビティは上階としています。重要な場所の家具は黒川勉さんにデザインしてもらっています。
活動の気配が繋がっていった方がよいのでシースルーにしていますが、生徒たちの気が散らないように、合わせガラスの中にセラミックプリントを施してパターンを入れました。西洋の教育を英語でやる国内初の男女共学校ですが、女の子が他人から見られることにあまり慣用でないイスラムですから、上の階にいる女の子が下から見えないように、キャストアルミで厚みのあるシェードを付けて視線を調整しています。実際に見るとシェードは全部モアレになって見えて、ヴェールの中を歩いているみたいになります。それ以外では擦りガラスのパターンによる視線のコントロールを施しています。近くから見上げると見えないけれど、離れると透けるものを厚さ30ミリでつくりました。トップライトの光は何回も反射させて明るさを調整しています。
空調には、冷たい空気が下りて床から吹き出す冷房(エアーデフューザー)を採用しています。
外壁には、横からの太陽光を跳ね返すためのアルミのルーバーを付けています。FLAの天井面はGRGのルーバーで上にトップライトのスリットがあり、全部天井側に反射をさせています。
照明は全部インダイレクトで天井向けにしか付けてはいけないので、器具の数はすごく増えました。丸いレクチャールームはシカゴの組織設計事務所が実施設計を担当しました。1カ月に1週間から10日間ほど現地に行って打ち合わせて図面を直していましたが、短期間なのでこの中はある程度彼らに任せました。彼らに設計できるところは少なかったのですごく凝った天井をつくっています。2カ月ほどの基本設計期間で詳細な寸法まで決めないといけないし、渡した図面の変更はいっさいできません。
壁面はクォイジ・クリスタルという数学的なパターンを使っています。スタートポイントを決めると無限に広がって、絶対に繰り返しがないのが特徴です。このパターンではペンローズタイルが有名です。ここの場合は、六次元包体の二次元投影という方法で展開しています。スターティングポイントと辺の長さを決めたら、立面はオートマティックに描くことができます。磯崎さんが設計されたモニュメントの下をポイントにして広げたものの起こし絵で決まっています。同じパターンが出てこないので、施工の時にはパネルを一枚取り付けるたびに足場から下りて図面を見直して、可哀想なぐらい苦労していました。
三十分の一の部分模型で、東面ファサードの光のスタディをしました。朝日の時は正面で、ちょっと南北軸から傾いているので12時ぐらいで西側に回り始めます。砂漠の夕方は太陽がオレンジ色に照るので、16時頃には完全な逆光で真っ黒に見えます。感覚的にやっていると間違えるので、すべて模型を用い光を動かしながらスタディしました。インテリアのFLAの光のスタディではトップライトのあるところは交差点のような場所で机を置いていないので、一瞬であれば直射光が床に落ちても構いません。ウインドタワーは建物全体に風を取り込むための装置で、現地で伝統的に用いられているバドギールを応用したものです。
外壁のパネルはステンレスケーブルで吊るしてあります。小口で50ミリのテーパーを取って絞り、目地も50ミリにしてあります。骨を組んだら影がたくさんできてしまうので、そうならないようガラスのファサードエンジニアリングを応用しています。50ミリ角の鉄骨を二枚のGRCでサンドイッチしたパネルをステンレスケーブルでぶら下げて、内側にリブが出ず、影をつくらない工夫をしました。
セカンドプロジェクトでは、セントラルライブラリーとステューデントセンターの設計をすることになっていたのですが、敷地が転々とした挙げ句に中断し、結局中止になってしまいました。セントラルライブラリーはペンローズタイルのクォイジ・クリスタルを使った、入ったらどんどん奥までさまよい込むような空間にしたいと考えていました。結晶の中のように立体的につくることをイメージして、ミラーを使った、どこがいちばん奥か分からないような構成です。ここではほかにADHの渡辺真理さんと木下庸子さんがコーネル大学医学部カタール校を設計されて完成していますし、リカルド・レゴレッタが工学部を設計しています。