アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
120メートル角の建物で、太陽熱を使うOMソーラーの屋根が架かっています。単独の建物における集熱面積は世界一だろうとのこと。設備では高間三郎さんに協力していただきました。太陽熱を集めて、空気のままで床下まで熱を送りますから、立ち下がりダクトがすべてレイアウトされています。
基本的には長さ120メートルのワンルームがつくれるような構造になっています。プレキャストコンクリートを用いてワン・ウェイの架構として、すべての壁をスパン方向に取り外せるようにしてあるのは転用を容易にするためです。また、梁は柱に取り付けたフックに引っかけています。耐力壁は南北方向だけです。
航空写真でトップライトのあるところがフレキシブル・ラーニング・エリア(以下FLA)と呼んでいる、動線でもあるけれど、でもいろいろなことが起こる「白」の空間です。中と外がひっくり返るような空間もあります。体育館はスポーツのためだけの空間ではなくて、脇に靴箱と自転車置き場があるので、生徒たちはここで靴を履き替えたあと体育館を通って一般教室に行くことになります。ちょうどパチンコの玉がこの場所から飛んで散らばっていくような動きになります。その時には体育館が玄関ホールにもなっているので「白」の空間となります。
総合学校の高校ですから、CAD室や化学実験室、コンピュータラボ、看護のためのベッドが置かれた部屋もあります。そういうアクティビティを部屋名ではなくて家具と行為との関係から考えないと部屋が分解されません。面積表に書かれているふたつの実験室をひとつにしてもよいのではないかと提案しないと単に足し算になってしまうだけなので、僕らがつくりたい空間にはなりません。ですから部屋の単位ではない、もっと細かい行為の単位まで分解するのです。いろいろな学校を一緒に見にいって、この部屋はふたつではなくてひとつでよいのではないかと説明します。家具をどう並べるかということがスタートになります。
南側にある一般教室は18室で、あまり差をつけないようにしています。それ以外の部屋は実験機器の種類も違ったりするので全部異なっています。ですからエクセルで表をつくったり、データベースソフトで入力したり、ソーティングをかける作業を延々とやらないとこのようなことはできません。総合学科では誰も単位を履修しなくなったコースはなくなってしまいます。たとえば土木系が人気がなくなって誰も単位を取らなくなると、それまで土木系の授業で使っていた空間を別のことに使わなくてはいけなくなります。そのため学校中にフレキシビリティが求められるのです。
平面図で一見行き止まりに見える所も、階段を昇り降りすると別の場所に繋がっています。建物が120メートルあるので長い距離を歩かないとひと通り見ることができません。子どもたちのロッカーは自分の教室の横と自分の選択したコースの教室に二ヵ所あります。先生は各教科の準備室にいますが、平面的に集中しないよう、できるだけ散らしています。
FLAの空間には大きなテーブルやLANのITジャックがあります。太陽熱で暖まった空気がダクトで床下に運ばれて壁際で吹き出します。宮城県の学校施設は廊下部分には暖房の予算はつけないというルールがあります。そのため、当初はこの学校の廊下にだけ暖房を入れるわけにはいかないという話になってしまいました。結局は、光熱費が増えなければよいだろうということで提案したのですが、実際、大きい屋根にソーラーシステムは相性がよいし、体育館以外はすべて暖房をしていても、実際には同じ規模の公立学校と比べてずいぶん重油の消費が少なくなります。経費があまりかからないとなったらさすがに文句は出ませんでした。
工事費に関しても、当初、延床面積23,000平方メートルの予定だったものを、20,000平方メートルにして、しかも要求されたもの全部が入るように設計しましたから、総工事費も変わっていません。でもそれをやろうとするとすべてを分析していかないと滅りませんから、作業としてはたいへんでした。
結果としてFLAと教室が同じ空気環境になっています。そうしないと冬にFLAが使われなくなってしまいます。ファンコイルユニットと補助暖房の機械があって、太陽の熱で暖まらない時にはそれで空気を吸って床下に暖かい空気を吹き出して、同じルートを使って重油で暖房をします。
素材は違いますが、中庭にも室内と同じように家具を置いています。室内にばかりアクティビティが集中するのは不健康だと思います。僕たちの生活でも、外で本を読んだり食事をすることはオープンカフェぐらいでしかできません。でも学校はそもそも冷房を前提にしていない部屋が多いのだから、季節のよい時には外をもっと使ったらよいと思います。
靴箱やロッカーなどの家具は、黒川勉さんのデザインです。靴箱は箱の間から向こう側に視線が抜けるよう凸凹にデザインされています。おしゃれなブティックをつくる名人でもありましたが、予算が少ない学校の家具でも適格なものをつくって下さる方でした。急逝されたのは残念です。
建物の中身がどう変わるか分からないので、設備配線は全部オープンにしています。そうしないと天井の下にあとからいろいろと付けられてしまいます。
120メートルの長い空間はあまりよくないと言われますが、ここは、さっと歩き抜けられるようにはなっていません。ですから意識的に直線を残すように設計して、途中でFLAを何度も横断したり、外部に面するようにしています。歩くスピードが早いイメージの空間、ゆっくり歩くイメージの空間、ほとんど停まりながら歩くような空間という、気分の違いをつくるようにしています。一階の部屋(実験室)も吹き抜けが割り込んでいて、そこから風が抜けるようにしています。平らな校舎ですが、中庭がたくさんなくても換気できるようにしました。土木の実習室の中には横断歩道があって、動線にもなるつくり方をしています。完全に閉じている部屋もあれば、カーテンで仕切るなど、仕切り方の加滅を変えられるように部屋をつくりました。職員室も動線になっていて、試験期間中だけは建具で仕切るようになっています。一般教室も欄間の部分をガラスにして、閉鎖的になりすぎないようにしています。
黒板の壁とホワイトボードの壁があります。可動黒板以外に固定黒板もないとだめだと言われて黒板だらけになってしまいました。アリーナの二階部分の通路は中庭を通って違う棟に通じています。ここには窓がなく外の様子が分からないので、いつの間にか違う場所にきているような、トポロジカルにねじったつくりになっています。武道場の上に通路も同様の移動空間を設けています。