アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
冒頭でお話した話に戻りたいと思います。私たちは日々建築に向き合っていくわけですけど、それが被災地で起きていることとズレている気がします。このズレをどう考えるのかというところに、最近は意識が強く向いています。
たとえば、大学ではモダニズムを教わって、技術や合理性みたいなものをひとつの答えとして教えられて、建築の世界に足を踏み入れてやってきたわけだけど、技術と言っても、その肝心の技術自体が破綻していることは、福島やそれで防げると思って防潮堤をつくっている三陸を見れば明らかです。
先ほどお話した津波の専門家の首藤先生には、一年間委員会で横の席だったので、いろんなことを教えていただきました。その時に首藤先生が強くおっしゃっていたのは、「同じ津波は来ない」ということです。だから、山のようなシミュレーションデータが出てくるのですが、シミュレーションはあくまでもシミュレーション。津波は極めて個別的であり、仮に、その一次波をシミュレーションできたとしても、緩衝波、要するにそれが跳ね返されて2番目の波が来た時にどういう振る舞いをするか、どんな高さになるかなんて分からない。地形によっても違うし、震源の場所によっても違うのだ、ということを首藤先生は繰り返しおっしゃいました。
これは、ほとんど私たちの技術や工学が否定され、打ち砕かれたようなものです。私たち が教わった近代的な合理主義であるとか、モダニティであるとか、今普及しているコンピュ ータやBIM、シミュレーションといったもの自体を疑う気持ちがない限り、同じことが起き ると私は思います。じゃあ、どうしたらいいんだということになりますね。それは、ひょっ としたら、私たちの感覚を研ぎすますことでしか解決しないのかもしれない。建築家が持っ てる勘のようなものです。こう言うとおかしいかもしれないんですけど、敷地に行ったり、 人と接したりすると、何か感じることがありますよね。そういうものが私たちにとって、と ても大事になる時代が来ているんじゃないかと思います。
当然、シミュレーションもBIMもどんどん普及していくと思うのですが、自ずとその限界はくる。そのシミュレーション自体を構成している、工学的な用語で言うと「境界領域[注5]」を疑う気持ちがないと、技術ってのは使っちゃいけないんじゃないかというような思いもあります。
そんなことを考えながら、私はまだ被災地と向き合い、それから事務所に行けば、建築家として建築を設計しているのです。今ここに答えはありませんが、この中で考えていくしかないことだと思っています。ここで私からの話は終わらせていただきます。
[注5] 複数の分野にまたがる学問分野。物理学と化学の物理化学、地質学と生物学の古生物学、医学と工学の医用工学などがある。