アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
妹島最後にご紹介するプロジェクトは、豊島と直島の隣の犬島という小さな島で、10年近く関わっている「犬島『家プロジェクト』(2008年〜)」です。アートの力で島を元気にできないかということで、福武總1郎さんに声をかけていただいて始まったものです。第1期はギャラリーを集落の中につくるというものでしたが、最近はアートの島としてだけではない、場所づくりのようなことも考えています。若い人びとが移住してきたり、または観光で訪れたり、短期滞在したり、というさまざまなかたちで人が集う可能性を探っています。
「C邸」南東より見る
まず第1期は、アートギャラリーが集落の中に点在するプロジェクトです。いくつかは新築で、いくつかはリノベーションです。基本的には空き家をギャラリーに変えるというアイデアですが、部材がまだ使える場合は積極的に再利用して、ダメージがある部材は新しいものに変える、という方法を取りました。例えば、「C邸(2013年)」は200年以上前の民家を改修しています。建材がしっかりとしていたので、既存の民家を一度解体し、建材は基本的にはオリジナルのものを再利用し、部分的に新材に取り替えて、組み直していきました。
犬島は、島の外周部が3kmほどで、1時間もあれば歩くことができます。ですから、訪れた人たちはみんな島に点在するギャラリーだけ見終わってしまうと他にやることがなくなってしまい、なんとなく次の船を待って帰ってしまいます。せっかく島を訪れてくださった方が、ギャラリーにしか触れないのはもったいないので、もうすこし島に滞在して時間を過ごせるような工夫ができないかと考えるようになりました。「犬島 くらしの植物園」は、捨てられていた温室とその敷地を改修したものです。ここを、福武財団の方がたと、犬島に移り住んだおふたりの方と共に改修を進めていき、〈くらしの実験場〉と位置付けて、サステナブルなくらしを考えています。ベジタブルガーデン、キオスク、鶏小屋、堆肥小屋等、自給自足のための施設がいくつも増設されていて、島の方がたや来訪者と共に土地を開墾していきながら、島の自然を体験できる場となっています。敷地のあちこちに舗装材として敷かれている竹チップは、日光を遮るので雑草が生えてこなくなる効果があります。ワークショップで訪れた学生たちと、島に生えていた竹を使って整備しました。
「犬島 くらしの植物園」外観
「犬島 くらしの植物園」配置
また、第1期のアートプロジェクトの次のフェーズとして、「犬島ステイ」計画を始めました。これは、犬島の集落内に外部から訪れた人たちが泊まれるような、小さい宿泊所をつくろうとスタートしたプロジェクトです。空き家1軒をまるごと改装するとお金がかかってしまうので、空き家の庭に建っている納屋を改装して、布団が2枚敷ける程度の簡易な寝室をつくり、宿泊ができるようにしました。外からやってきた人たちが、集落の只中に宿泊できるのは新鮮だし、島にとっても、若い人が滞在してくれるのは活気が出てよいと考えたのです。ひとつ目の宿泊所はもう既に完成していて、現在ふたつ目の工事に取りかかっています。「犬島ステイ」では、寝室以外にもさまざまな機能が計画されていますが、島が小さいので、ちゃんとしたホテルのような宿泊施設はつくらずに、みんなでシェアできるダイニングキッチンやお風呂を1ヵ所設けたいと考えています。例えば、朝ご飯の時間になったらここに集まってみんなでご飯を食べ、昼間はおのおのが島のどこかを訪れ、寝る時になったら寝室に戻ってくるようなイメージです。また、集落内にホッピーバーを計画していて、「犬島ステイ」の大きなキッチンが完成するまで、地元の人と来訪者が共有できるものにしています。
犬島ではその他にもさまざまな活動をしています。そのひとつとして、ランドスケープの専門家と島中を歩き回り、犬島の中でも植生的に特徴のある場所を、再整備しています。またそれらをマッピングしたアプリを作成して、例えば「なぜこの木がこの場所にあるのか」といったランドスケープの歴史やさまざまなバックグラウンドを理解できるようにしました。来訪者はアプリを通すことで、見て回るだけでは分からない犬島の魅力を知ることができます。また、島では頻繁にワークショップを催しています。これまでに、油絵を描きながら島の記録を残すという油絵ワークショップや、島で採れた食材を用いた料理ワークショップ等が行われました。他にも、学生と共に草が生い茂った道を回復させたり、音楽グループを呼んでライブを行ったり、地元の人と一緒になって犬島の将来のビジョンを語り合ったりと、さまざまな取り組みを行っています。
「犬島ワークショップ」道の回復の様子