アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
ベローナにある有名な「カステルベッキオ美術館」は、骨格のみが残されていた古いお城を、スカルパがリノベーションしたものです。
敷物みたいに床がひいてあって、その上に彫刻が展示されています。入った瞬間には決して全貌が分からない、一目瞭然にはならない、すべてが断片化している状態の空間です。ちらっと一部が見えているだけで、すべてがかけらの状態で見えます。丸見えになっている彫刻もありますが後ろを向いていて、いずれはその前に行って振り返ることが意図されています。それぞれの展示物の個別の空間をただ見るというよりは、鑑賞者がその空間の中をまるでお湯を掻き分けるように自分の意思で進んでいってもらいたいと考えてつくっているように思います。
展示室の途中にトイレがありますが、展示壁と同様の衝立てがあって、入口がむき出しにならないようになっています。その向かいにある前庭に面した屏には、スカルパの意図が顕著に表れています。もともとあった古いアーチ型の窓ではなく、それより奥にガラスをはめています。このサッシはモダンなデザインで、外側の造形とは対比的で面白いものです。スカルパはこの古い建物の改修で、意図的にコントラストの強いデザインを施しています。この部分は自分がやったということが、はっきり分かるようなデザインだと思います。古いものだけではできない、スカルパだけでもできない、新旧ふたつが紐み合わされてできた窓と言えるでしょう。
突き当たりの部屋はひとつとして同じ要素のものがなく、違うものだけで全体を調和させています。スカルパの展示空間はこれから行く先がちらっと見えていたり、通り過ぎて振り返るともう一度見えたりと、折り重なるようにでき上がっていますが、それはベネチアの街そのものです。道と運河が組み合わされ、橋を渡ると先ほど渡った橋が見えたり、これから行く先が見えたりして、ちょうど物語のように全体が構成されています。これを私はスカルパの空間にしばしば見られる「粒伏の小空間の物語的な連鎖」と呼んでいます。
スカルパは展示空間や既存の空間の中でものを考える時に、絶えずもとにあったものを活かしながら、新しく自分が付け加えるものをどうやって際立たせるかということを考えていた建築家だと思います。これは特別なことなのかと考えると、決してそうではありません。敷地だけを見れば更地でも、その周辺を含めるとまったくの更地ということはあり得ないのです。周辺を含んだ範囲で見れば、新築ではなく増築することになるわけです。更地の白紙の上で建築を考えていくと、どうしても合埋的・理論的につくっていくことになりますが、周りに何かあるとそれに付き合わざるを得ないことがたくさんあるように思います。その時に、古いものにただ合わせるのではなくて、古いものと新しいものが組み合わさってなおよくなる相乗的なものを目指すことをスカルパは示唆しているのだと思います。