アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
夥しい数のコンペに落ち続けてきましたが、未来の糧にできるようなアイディアが貯まっている状態の中で、2000年と2001年に続けてふたつのコンペに勝つことができました。
そのひとつが群馬県の「神流町中里合同庁舎」です。関東地方で(島を除いて)いちばん小さな、人口997人という村の役場の建て替え計画です。役場として建て替えるけれど、早晩合併されて、いずれは役場でなくなる建物です。そこでまず建物の原形を考え、その中をどうやって単純にしておくかを考えました。コンペ案は役場の機能をすべて上階に載せ、それ以外は巨大な空洞にして、その両脇に小さい空間の単位を入れて、それぞれ必要に応じて使えるようにしました。将来、村の人たちから美術館、図書館、劇場、ダンスホール、パーティルームが欲しいという要求があっても、それをひとつひとつつくっていくことは不可能なので、この建物ですべてがまかなえるようにつくっておくことを考えました。
このコンペに勝った後、日本中の友人から「敷地を見たのか。あそこに四階建ての建物がいるのか」と批判されました。でも、いるものはいるのです。
谷あいの川に沿った敷地で、ふたつの山がちょうどすっぽり見える洞穴のような場所をつくろうと思いました。通常の公共施設や庁舎は建物中に入ってしまうと自分たちが住んでいる街がほとんど見えなかったり、申し訳程度に展望台があったりします。ここでは建物の中のどこにいても自分たちが住んでいる外の環境との繁がりが意識できるような建物にしたいと考えました。どんな敷地も必ず周りに囲まれていて、その環境に対するひとつの増築だと言えます。ここではこの場所に立った時に子どもの頃から慣れ親しんだ谷間の地形と象徴的なふたつの山を見えるようにしておくことで、自分の居場所をいつでも忘れずにいられるような空問にしたいと思いました。
役場としての平面計画は詰めていくことはできますが、それ以外は将来どうなるか分からない建物なので、周辺の小中学生を集めて役場でなくなった時にどう使えばよいかをワークショップで検討していきました。実際には工事中に合併をしてしまったので、役場として一度も使われることがないままに別の機能を持つ建物(役場分序舎・健康増進管理センター・図書コーナー)になっています。特殊建築物になったので後からもうひとつ直通の階段を取り付けました。工事中に用途が変わってリノベーションをすることになってしまったのです。幸いワークショッブで将来を考えていたおかげで、慌てることもなく次の使い道として使われています。子どもたちがいろいろ考えてくれたものがそのままアイデアになっているわけではないですが、どんなふうに建物が柔軟であればよいか、どんな空間を用意しておけぱよいかが分かっていきました。忙しい村の大人たちを集めて、役場でなくなるけどどうするかと相談してもうまく行くはずがなかったのです。一見馬鹿馬鹿しいと思われるかもしれませんが、何回かワークショップを重ねるたびに、子どもたちを通じてその親御さんにも浸透していきました。建築に携わる私たちが分かっていても、役場や村の人たちがそういうものをつくっておくのはよいなと思えるようにならないといけないので、子どもたちが非常に大きな力になってくれました。子どもたちは建物が完成した時には中身を把握していましたから、最後のワークショップでは大人たちを案内して回ってくれました。
子どもたちの中の何人かは将来必ず役場に就職するはずです。彼らが村に戻ってきた時が本格的にこの建物をどう活用するかが大事な問題になっているはずなので、真剣に取り組んでくれるとよいなと思っています。
ホールには最初から棚をつくって図書館として使えたり、集会場になってもよいようにつくっていました。完成した後、すぐに図書コーナーとなっています。議場になる予定だったところは集会場になっています。役場になる予定だったところはフィットネスセンターになっています。不思議な運命を辿りましたが、慌てることなく第二の人生を送っている建物です。合併後は教育の核施設となっています。役場ができ上がった後に、後ろ側の中学校の体育館を改築することになりました。役場は特殊建築物になる可能性があったので木は使いませんでしたが、体育館は鉄骨造で中は木でつくっています。