アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「ベネチア建築大学増築」のコンペでは、路地の向こうが時どき抜けて見えたり、見えなかったり、通ったところが見えたりするような、ベネチアの空間性を再現しようと提案しましたが、この考え方を「近藤内科病院」を設計する時に使いました。
この病院は徳島県で初めてのホスピスで、ホスピスと内科病院をどう融合させるかが課題でした。当時は日本にホスピスは30件ぐらいしかなく、その大半は古い病院を改修した建物でしたから形は病院と同じです。ところがホスピスは通常の医療施設とは違って末期患者のための居住施設でもあるので、個室化して住宅のようにつくられることが提唱されていました。実際にホスピスを調べてみると、ひとつひとつの病室は住居に近いしつらえがされていますが、ドアを開けるといきなり病院の廊下になっています。それではいけません。病室が住宅ならば、病室を出たところは街になっていないといけないと、病院全体が街になるようなホスピスをつくりたいと考えました。
当時つくられていたホスピスは、たいがい一般病棟と離れた場所にありました。そうすると、あそこに行くとお終いだと思われるものになってしまいます。人間は健常であるところから衰えていくかもしれませんが、それは切り離されたものではなく、普通の生活の延長にあるものです。たとえ末期の状態にあっても、ホスピスと一般病棟が別々に隔離されたようにあるのはおかしいと思いました。
この「近藤内科病院」は一階は通院する一般の外来部門で、二階は入院する内科病棟、三階は緩和ケアをするホスピスで、それらが自然に繋がり合っているものにしたいと考えました。一見、酷なように見えますが、逆に患者や家族にとって、人間の死が特別なことではなくて、いずれ訪れるものとして提えてもらいたいと思いました。最近は自分の祖父母だけでなく、ご近所の高齢者も自宅で亡くなることが少なくなっています。死というものに接しにくくなっているので、それを連続的なものとして構成した建物です。
それ以外にも全体を街のようにするための検討や、ナースステーションの位置の研究をしました。一直線の長い廊下の先にあるナースステーションと、ロの字型のナースステーションのどちらがよいかというヒアリングをしました。見えるけど遠い廊下の先にあるナースステーションより、見えなくてもすぐ近くにあるナースステーションの方が安心感があるという声がありました。廊下がロの字に回っていて、周りをぐるりと病室が囲んで、真ん中にナースステーションを配しました。ナースステーションは四方八方に繋がっています。ほかに階段やエレベータやトイレがありますが、それをできるだけバラバラに置いて隙間だらけにした「ルーズなナースステーション」をつくりました。どちらからも目配りができて、どこから患者さんが来てもすぐナースステーションがあるという平面です。ある夜に一晩中ナースコールを鳴らす患者さんがいらしたので、ナースステーションにベッドを移動して一晩過ごされたそうですが、騒々しいはずなのに朝まで安心して休まれたという話を聞きました。プランでいうと、四角い真ん中にあるので光が入ってこないように見えますが、光庭を付けて、向こう側にも手前にも出ていくことができます。光庭を通して視界が通じ合うので、死角を少なくすることができました。
大部屋の病室の居心地の悪さは、ベッドの回りのカーテンを開けると向こう側からこちら側を向いている人と対面してしまうからだと思います。二階の一般病棟では、全員が窓向きになる病室を提案し「サンデッキ型病棟」と名付けました。すべてのベッドの前に窓があって、窓の開け閉めはひとりひとりの自由になります。窓際にはカウンターテーブルとひとりずつのイスを置いて、食事や読書にも使えるようになっています。気が向けば食事を一緒に食べたりもできます。看護師さんはいろいろな人の顔を見ながら歩いていくことができます。気分がよくない時にはカーテンを少し閉めて、自分の窓だけが見えるようにします。もちろん声は聞こえますが、それなりにプライバシーが確保されます。