アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「せんだいメディアテーク」がオープンした直後、ロンドンのケンジントン・ガーデンの中で「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン 2002」という仮設のパビリオンをつくる機会を得ました。2006年はレム・コールハースが風船のようなパビリオンをつくりましたが、毎年、ここで建築家が仮設のパビリオンをつくって、さまざまな試みをするという意欲的な企画で、2002年は私がデザインしました。
この時は、設計の最初の段階からロンドンの構造設計者セシル・バルモンドとコラボレーションしました。18m四方のキュービックな形態を外周だけで支える方法として、通常ならグリッド状に分節しますよね。ところがセシルが提案したのは正方形を内接させながら回転させて分節していくという方法でした。構造システムに運動の幾何学の考え方を引用し、流動性のあるシステムにしたいと考え、回転させるという法則に従ってパターンを決定していったのです。
でき上がったパビリオンは一見ランダムなラインだけで構成されていますが、正方形を拡大・回転させることによって導かれるアルゴリズムで屋根を構成するラインがつくられ、そのラインを延長して壁が構成されています。屋根から続いて折れ曲がった線が床まで到達するのです。構造のラインで切り分けられた多角形の中には、熱対策としてアルミパネルとガラスが市松状に入っています。しかし夏の三カ月間だけの仮設のパビリオンだったので扉もなく、一部は開いたままという状態になりました。空調もないし、雨はある程度しのげますが、風は入ってきます。敷地は王室が所有しているロイヤルパークなので基礎を掘ることができず、地上に基礎を直置きしただけの状態でした。
外周の構造は、垂直な柱が一本もないスチールフラットバーの溶接だけでできていて、フラットバー同士が網状に互いの座屈を抑えるネットワーク状の構造です。全体としては箱なのですが、内部に入った時に稜線がありません。つまり天井と壁、壁と壁が接するラインがはっきりしていないのです。天井からのラインがそのまま壁に落ちてきていて、ドアも窓も単に開口のひとつに過ぎず、それらの効果で内部空間はドームのように見えました。箱の中にいるのにドームのように見えるという不思議な印象を持ちました。そして、私にとって面白かったのは、この空間では建築の持っているヒエラルキーが消えたことです。ドア、窓、床、柱といったオーダーがなくなったために、人びとはずいぶん気楽になったようでした。
三カ月の間、ロンドンの人がたいへん楽しんでくれて、カフェとしてあるいはパーティ会場、レクチヤーホールとして使ってくれました。このパビリオンは、建設に8000万円くらいのお金が必要でした。そのうち4000万円を寄付で賄っています。鉄骨とガラスが大きな部分を占めていたのですが、そのふたつを無料で提供してくれました。そして残り4000万円のうち2000万円がパビリオン建設の予算で、残りの2000万円は、三カ月使った後に売却することで補いました。ロンドンのデベロッパーが買い受けて、そこが開発しているテーマパークの中に再建されて、テーマパークがオープンした暁には、再び一般の方たちの前に姿を現すことになります。