アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「台湾の台中市で計画中のオペラハウスです。このプロジェクトの前に「ゲント市文化フォーラム」のコンペで落選してしまい、再度、同様のシステムで台中のコンペに挑戦して、今度は当選しました。既に基本設計に入っています。
このコンペではザハ・ハディドと曲面の使い方について競いました。私の提出した案は、曲面の連続だけでできていますが、決して彼女が使う曲面のようなダイナミックで、きれいであることを目指したカーブではありません。私の曲面はシステムをつくっているのです。グリッドを変形させて曲面の連続体に到達する「エマージング・グリッド」を使って、彼女に対抗しました。内部はいたるところ洞窟のような曲面の連続で、どこまでが床で、どこまでが壁かという区別がありません。その結果として、壷のような、ちょっと東洋的な印象のある計画ができました。
この建築で最初に考えていたことは、建築の内部と外部についての問題でした。道の端や広場でコンサートをやっていると、さまざまなノイズは入ってくるけれど、寝転がったり、コーヒーを飲んだりしながら聞いていてもよいといった楽しさと自由があります。そういう外部空間が、そのまま建築の中まで入ってきたような、道路が続いて広場に続くような空間をつくってコンサートができないだろうかと考えていたのが、そもそもの発想で、そういう空間を曲面の連続体で構成されたシステムでつくろうと思いました。
台中市は、グリッドで構成された街です。一方で、この建物を構成している「エマージング・グリッド」は、グリッドを変形させたものです。内部のプログラムによって、グリッドのボリュームが変わっていく構造体です。
「せんだいメディアテーク」ではフラットな床があって、垂直方向だけ有機的な形態をしたチューブが貫入していましたが、「台中メトロポリタン・オペラハウス」では、水平方向にも垂直方向にも連続するチューブで内部空間が形成されているのです。もちろん、その間に壁を立てたり、床を張ったりしながら、カットしていきます。曲面に対して床を張るので設置するレベルを変えると、そのたびに床面積がどんどん変わっていきます。その床のレベルを水面にたとえているのですが、そうすると水が流れていくような、壷の中を液体が流動しているように見えるかもしれないとも思っています。
チューブの中と外の関係は、たとえば、人間の身体と同じです。人体には口から喉、食道から腸に続いて、最後はおしりに繋がっていくようなチューブがあります。そのチューブ、あるいは胃の中は、人間の体にとって中なのだろうか外なのだろうか。食道の中とか胃の中とか、そんなイメージで外に繋がっていくようなもので、そういうことを建築でやってみたかったのですね。
まだランドスケープのデザインはできていませんが、敷地はかなり大きな公園の中にありますので、内部を形成しているシステムが外部にもはみ出して、ランドスケープを形成しながら、都市へ滲み出していくということを検討しています。
私は以前から無意識に、そして最近では意識的に、洞窟のようなプリミティブな空間について考えています。グリッドを変形するというコンピュータの操作をやりながら、それが洞窟のようなプリミティブなところに帰っていく。そう見てみると「TOD'S 表参道ビル」は木の家のようにも見えます。どちらも、人間のいちばん始原としての住処です。自分でも想像していなかったので、ちょっと不思議な気がしていますが、なぜか自然に帰っていくのです。「東京−ベルリン/ベルリン−東京展」で、ひとりのアーティストが波打った床に反応して動物のように変わっていって面白いと思ったのは、そんな意味合いからでした。