アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「建築の生成」というテーマでお話をさせていただきます。「建築の生成」とは、建築が生まれる瞬間と言い換えるとお分かりいただけるかなと思います。通常、私たちが雑誌や展覧会で紹介するのは竣工後、つまり完成した状態のものですから、設計の初期段階で考えていたことを誌面や展覧会場で見ていただくことはありません。ところが本当に面白いのは、建築が生まれるまでのアイデアがどのようにして出てきたのかというところだと思うのです。今日は、最新のプロジェクトの中からふたつに絞って、建築が生まれる瞬間についてお話ししたいと思います。
ひとつは東京都八王子市に計画中の「多摩美術大学附属図書館」です。2007年3月末に竣工する予定の図書館です。もうひとつは「台中メトロポリタン・オペラハウス」です。台中という台湾の真ん中にある都市に計画中のオペラハウスです。今、基本設計の真っ最中です。この建築の全体を構成しているシステムは、「ゲント市文化フォーラム」のコンペに応募した時から考えていたものですので、そのコンペ案についても触れていきたいと思います。
「多摩美術大学附属図書館」と「台中メトロポリタン・オペラハウス」のふたつのプロジェクトは見た目はまったく違うように見えるのですが、実はどちらも洞窟のイメージをきっかけにして設計を始めました。いわゆる洞窟というものには外部がなくて内部しかありません。入り口はあるけど、基本的に内部しかありません。だから内部にどのように光が入り込んでくるのか、あるいはどのように風が吹き込んでくるのかといった内部性が洞窟の面白いところです。通常、建築には外形があって、外部と内部の境界が必ずありますが、洞窟には外形がなく閉じられた世界が存在するのです。
ご存知の方もいらっしやると思いますが、埼玉県に吉見百穴という洞窟があります。古墳時代のお墓で、200個以上の洞窟が散在しているところです。もっと有名なものでは、フランスの南西部にあるラスコーに1万5000年前の人たちによって数百の動物の壁画が描かれた洞窟があります。多摩美術大学教授の中沢新一さんは壁画の描かれたラスコーなどの洞窟は、人が住んでいたような居住のための洞窟とはまったく性質が違うと書かれています。アプローチしにくい奥の奥にあって、そこでは宗教の始まりのような儀式が行われていたということです。まだ神のいない時代に、そこで人びとが自分の内面を描き出した。それが芸術の始まりなのだとお書きになっています。そのことは実に興味深いことです。閉じられた宇宙。そこで人間が完全に日常の生活から隔絶されて、何か別の内面を見つめる。それが洞窟の空間が持っている本質なのです。