アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
岐阜県各務原市の山の中にある市営の葬祭場です。市の人口は15万人くらいですが、街から離れたこの葬祭場のオープニングに700〜800人もの市民の皆さんが来てくださいました。そのオープニングの時のスピーチで、「この建物の中で、いちばん面白いのは屋根の上です」と言ったら、誰かが、裏の方に付いているタラップを見付けて、屋根に登り始めました。そうしたら手摺りも何もないのですが、みんなが登り始めました。これは面白い風景でした。「伊東豊雄 建築|新しいリアル」展の床に、ちょっと似ていて、屋根の上にいるというより、雪の降った地形の上を歩いているようでした。
ここは公園墓地で、もともと溜め池として使われていた池を整備して、そのはとりに葬儀場をつくりました。背後には里山が建物の周辺を囲んでいて、その山との関係で、地形のような形をした屋根を発想したのです。屋根の形状の決定は、まず内部のボリュームをもとに私たちが形態をつくって、そのモデルについて佐々木睦朗さんが構造のシミュレーションをして修正していく手順で行われました。
葬儀場の動線というのはだいたい決まったものがあるので、それに沿って平面計画をしました。告別室がふたつあって、炉前ホールに炉が六基あり、そこで焼いている間に、待合室で水と向き合うようにして一時間ほど時を過ごした後に、収骨室で骨を拾って帰るという、そのサーキュレーションがはっきりした平面計画です。特に炉室は、機械の高さによって室の高さが決められますので、そこを中心に屋根の高さを決めていきました。
屋根の曲面を佐々木さんがシミュレーションし始めて、屋根の曲面が隆起したり削られたりすることを繰り返して、あるバランスに到達しました。水が流れて、または風が吹いて、自然の地形が少しずつ変化していくのと同じことがシミュレーションの中で起こったのです。本物の地形ではないので、カの流れのシミュレーションによる変化が屋根の形状の変化として起こったわけですが、そうやって私たちの最近のプロジェクトでは、非線形の幾何学を使って、流動的な空間をつくり出すことが行われているのです。
他のいくつかのプロジェクトと同様に、この時も、施工が最大のクリティカルポイントだったのですが、ここでの施工は素晴らしいでき映えでした。コンクリートの型枠があまりにもきれいだったので、屋根の部分の型枠をとっておいて、「伊東豊雄 建築|新しいリアル」展で、8m角の部分を展示し、その上を歩けるようにしました。工場で切板加工された大引きをガイドとして1メートルピッチに並べて、それと直行するように 75mm × 12mm の根太を一枚一枚なりで曲げながら五枚重ね、そうしてできた格子に堰板ベニヤを貼って三次元の曲面の型枠をつくり出し、その曲面に沿った配筋をしていきました。屋根がくぼんでいって柱になっているところの中を雨水の樋が入っているので、その周辺部の型枠はすごいです。
こうしたコンクリートを打つとか型枠をつくるといった施工技術において、日本には、まだすごい職人さんがいるということを現場をやればやるはど知らされて、本当にすごいことだなと思っています。最近、私はヨーロッパやアジアでの仕事が多いのですが、海外では「自分がこの作品をつくるぞ」という意欲を持ってやってくれる職人さんと出会うことははとんどありません。スペインのトレヴィエハの木材を組んでくれるような職人さんはいますが、日本と比べたらその技術は段違いに低いです。日本の職人のそういった精度に対する執着というのは、本当にすごいと思います。
最終的にでき上がった屋根は、フワッと舞い降りた鳥のようなイメージで、屋根がくぼんでいって柱になり、どんどん細くなってピンポイントで地面に接するというものでした。一方では大理石でつくった床が立ち上がっていって壁を形成するという、ふたつの要素によって構成された空間になりました。そうやって、何か静けさを感じられるような空間をつくりたいと思ったのです。
オープニングに来た人たちの中で、葬儀のない日に、ここでコンサートをやったらどうかと提案した人がいました。市長は即断・即決をしていく実行力のある方でして、オープンしてひと月はどでコンサートを開きました。50人くらいの人が集まったそうです。