アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン 2002」で使ったネットワーク状のストラクチュアを仮設物ではなくて、今度は建築に応用してみようと思いました。表参道にTOD'Sというイタリアのブランドの商業ビルを依頼されたのですが、そこでネットワーク状のストラクチュアを再現しようと思いました。同じく表参道に位置する「ルイ・ヴイトン表参道ビル」(青木淳建築計画事務所)や「ディオール表参道」(妹島和世+西澤立衛/SANAA)に比べると敷地条件が悪く、L字になっていて、道路には二面接するのですが、メインの表参道に面する間口は10メートルはどしかありません。建物の形状もL字になるので、敢えてフアサードの六面全体を同じパターンでつくりたいと思いました。
表参道には、きれいな並木があるので、それをシルエットにしてファサードに展開する計画としました。この建物では「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2002」のようなアルゴリズムを使うのではなくて、ケヤキの枝の開き方や分かれ方などのスタディをして九本の樹木のパターンで六面のエレベーションを構成しました。そうすると不規則なネットワーク状のストラクチュアができるのですが、それを今度はスチールではなくコンクリートを使って、表層の素材とストラクチュアを一致させてみようと思いました。
コンクリートを使うことはこの場所に建築を依頼された時から考えていました。商業ビルはガラスカーテンウォールの建物が多いので、敢えてコンクリートを使って壁を感じさせ、間口の狭さに対して強いアピール力を持った建築を考えたかったのです。構造は新谷眞人さんにお願いしました。最近、私たちが設計した建物のストラクチュアははとんどすべて、私たちが指定したモデルを使って構造のシミュレーションをしてもらい、地震力や鉛直力に対してモデルがどのように反応するかを見極めながら、モデルに少しずつ部分的な修正を加えてバランスの取れた状態に到達させていくという構造の解析方法が採られています。ひと昔前だったらコンピュータの容量が足りなかったそうですが、この10年はどの飛躍的な進歩のおかげで、新谷さんも佐々木睦朗さんも私が関わっている四人の構造設計者の方には、この方法が採られています。私たちが提示するパターンが変われば、またバランスが変わるという具合で、まさしく自然界の樹木と同じです。100本の木があれば100本とも形が違うように、このストラクチェアのシステムは100通りのパターンでも1000通りのパターンでも考えることが可能なのです。
こうして計画したものをうまく施工できるかが最大の問題だったのですが、職人さんたちには素晴らしい仕事をしてもらいました。現場内に入ると、私たちも緊張するような空気が漂っていました。配筋と型枠がとても素晴らしかったので、「伊東豊雄 建築|新しいリアル」展でも同じ職人さんに配筋の一部を再現してもらいました。特に配筋工の職人さんたちは三次元のCGを自分たちでつくって、それを見ながら鉄筋を配置していたのですが、それには私も驚きました。現場での職人さんの仕事は、腕のよい職人さんの経験と勘に頼っていたかつてとは変わってきていて、コンピュータがさまざまな時点で使われるようになっています。そのことが私にとってもとても刺激的でした。こういったことが進んでいって、ひとつのコンピュータのデータが更新されながら設計、構造解析、施工の各段階が繋がっていくと、とても面白い建物のつくり方になると思います。
施工は非常に短期間で行う必要がありました。開口部は外部側と室内側にガラス面を設けて、おのおの仕上げと同面で納めていますが、時間を短縮するためにコンクリートが乾かないうちにガラスを入れなくてはならないというので、結露が生じることが予想されました。そこでゼネコンの提案で、結露対策として、すべての開口の隅に小さなチューブを通していて、それが壁の中を通って床下の何カ所かに集められ、そこから圧縮空気を送って、もし結露が発生した場合には、空気の入れ替えが可能になっています。結局ほとんど結露は起こらなかったのですが、そういう配慮もなされています。
外壁には約270カ所にランダムな開口部がつくられ、そのうちの200カ所がガラス、残りの70カ所にアルミパネルが嵌められています。ガラスがコンクリートに象嵌されたように見せたかったので、サッシレスにしてコンクリートとガラスの間は約8mmのシールで納めました。実はそこがいちばん難しかったのですが、抽象化したファサードを形成するために必要なことでした。
そうしてつくられたストラクチュアのシステムが、内部の店舗デザインにまで反映されていて、すべてが直角ではない角度で交差するラインで家具がつくられました。六階のパーティルームは、家具も間仕切りも配置されていないので、そこに行くと建築のコンセプトが、そのまま分かるような空間になっています。