アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
スペインのバレンシア地方の地中海から少し入ったところにあるトレヴィエハという街で、延々とつくっているスパのプロジェクトです。この敷地の近くには、建て売り住宅が大量にあって、普段は5,6万人程度の人口なのですが、夏のバカンスの時期になると20万人くらいに膨れ上がるリゾート地域です。ここにはふたつの塩湖があり、そのうちひとつがプランクトンの関係で、ピンク色をしています。そのほとりは気候がよいので、北ヨーロッパの方から移住してきた人たちがたくさん住み着いていて、砂を掘って体を浸けるといったセラピーをしています。それを市が施設化しようとして、このプロジェクトを依頼されたわけです。
広大な敷地に少し手を加えて、風紋のような地形にして、そこに三つの貝殻状の建築が横たわり、半分砂に埋まっているような建築をつくろうとしています。三つの建物は、ひとつが更衣室やオフィス、ひとつがレストラン、そしてもうひとつには泥水のプールがあります。そこで泥水に体を浸してセラピーをします。建物の外部にもそういったセラピーの空間を計画しています。日本だったら三年で全部完成していると思いますが、工事が始まって六年ぐらい経っているのに、まだ一棟日の80パーセントしかでき上がっていません。実は三棟分の予算を最初の一棟で全部使ってしまいました。日本だったらとっくにクビになっているところなのですが、ここの市長が面白い人で「自分が予算はまた取ってくるから、いけるところまでやってくれ」と言われています。ようやく今、三棟目までの契約ができたところですが、最初の設計料はおおよそ200〜300万円くらいでした。東京から一日掛けても行けないくらい遠い場所で、六年間も掛けてやっていると、コスト的にはとんでもないことになっているのですが、市長の「面白いから10年掛けてでもやろう」という言葉を聞くと、何度でも行く気になります。
構造は池田昌弘さんにお願いしました。「せんだいメディアテーク」の時に佐々木睦朗さんの事務所に在籍していて、その後独立なさった若手の構造設計家です。この建物ではスパイラル状のストラクチュアをつくってみたいと思い、五本のスパイラルを描く直径60ミリのスチール丸鋼を先端で束ねて、その間を木材で結んで構造にしました。これは不安定なストラクチュアなので、床を中央に配置して、そこから引っ張ってたわむのを防いでいます。ひとつひとつ部材が入ってくる角度が違うので、木造でないとできません。本当の手づくりで、現場合わせをしながら、最終的にカットするという作業をしながら、ここまできました。丸鋼と木材は金物でジョイントされて木造とも鉄骨造とも言えるような空間になりました。
以前、私の設計した「下諏訪町立諏訪湖博物館・赤彦記念館」も、見た目では同じような流動的な形をしているのですが、あの博物館では1/2のアーチを連続させて、それを結んでいって、三次元の曲面をつくりました。ところが「リラクゼーションパーク・イン・トレヴィエハ」では、五本のスパイラルと五角形を回転させていくアルゴリズムで形がつくられていて、まず平面の形を決めて、断面を五角形にして、それを回転させながら結んでいます。要するにアーチではなくて、スパイラルで流動的な形態をつくることができるようになったのです。10年の間に建築の世界でも、そういう変化が起きているわけですが、そのことが、私にとって非常に興味深いことなのです。つまり今まで純粋な幾何学を結び合わせることによってつくられていた曲面が、自然界を構成しているスパイラルという、開放系の曲線でつくれるようになりました。アントニオ・ガウディがやっていた有機的な形態、自然界の生命を持ったものの形態を構築するシステムに少し近づくことができているのです。ガウディが逆さ吊り実験をやって、10年掛かりで解決したことが、今はコンピュータを使って一週間もあればできてしまうというわけです。