アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「TOD'S 表参道ビル」に続いて商業ビルを銀座に設計しました。この建物は大成建設と一緒にコンペに参加して、設計も一緒に進めました。条件の中で「TOD'S 表参道ビル」と大きく異なっていたのは、高さが50m以上だったことです。そういう違いはあったのですが、「TOD'S 表参道ビル」と同じように、力がストラクチュアをランダムに流れていく考え方をして、表層の素材と構造体を一致させました。
構造は佐々木睦朗さんに計画してもらったのですが、薄い壁をつくるために、銅板コンクリート構造という特殊な構造を用いました。二枚の鉄板の間にコンクリートを詰めた壁式の構造体です。この構造体は方向性のない面的な構造システムなので、開口形状を自由に決めることができるのです。私たちは内装に関してノータッチで、テナントビルに何が入ってくるか分からない状態だったので、店舗に使った場合に支障がない程度の開口率を確保する以外には、開口に対しての原則はありませんでした。開口の形状を正方形とか長方形のパターンにしてしまうと、一辺が何メートルのモジュールのグリッドといった具合に形が一度に決まってしまうのですが、ひとつの開口部の形を不定形にすると、それにともなって隣も影響を受けて変化していきます。そういう考え方で、開口の形状が決められていきました。ここでもまた「TOD'S 表参道ビル」と同じように、シミュレーションで何通りものパターンが展開され、具合の悪いところは少しずつ修正を加えていって形を変更しました。
敷地が銀座だったので施工には苦労しました。溶接工事が深夜にしかできなかったので、工場で運搬可能な大きさにつくられたパネルユニットがトラックで運ばれてきて、深夜に溶接作業が繰り返されました。ファサードには塗装以外の仕上げはしていません。通常、カーテンウォールには必ず目地が出てくるのですが、私たちはシームレスであることにこだわりました。ユニットも何度かモックアップをつくって、鉄板を溶接した時にひずみが起こらないように、塗装のムラがないように実験を何度も繰り返しました。
このユニットをどういう手順で施工していったかというと、先にユニット同士の仮溶接をして、ひとフロアごとに、コンクリートを打って、その後に鉄板を本溶接することによって、溶接による鉄板のひずみをコンクリートの拘束力によって少なくするという方法を採りました。結果として、とてもスムーズなファサードをつくることができました。
12mmほどの厚さの鉄板を職人の手作業で溶接するというプリミティブな手法を使って、抽象性を持ったシームレスな面をつくるという矛盾したような行為が起こつたわけです。つまり、最もプリミティブな作業によって、最も抽象的な建築をつくるという逆説が起こつたのです。