アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
少し都市的な話になります。「三原市芸術文化センター」は約1200席を有する、かなり本格的なフライタワー(舞台空間)を持った建物です。ここは比較的静かな既存の市民公園の中につくられ、すぐ近くに野球場、それから子どもの遊び場もあります。
こうした施設のホワイエというのは、普通ですとホールからそのまま大きく持ってくる、というのが常識的です。しかし目の前に比較的静かな市民公園があり、まオーディトリウムが常にアクティブなわけではないここの環境においては、よくありがちな何かを主張したホワイエにはせず、公園の中の低層のパビリオン風のものをつくった方がよいのではと思いました。そうすることで、何もやっていない時はホワイエに市民の人が気軽に入ってきてエキシビジョンを見たり、また公園に遊びに来た人が休むこともできます。また建物の前は緑地にして、子どもが遊んだりする、そういう風景をつくろうとしました。
内部を見ると、ホワイエの真ん中が中庭になっています。またホールでイベントがある時は、気候がよければ中庭にも人が出て広く使えます。イベントがない時も、ここで休めるような開放的なスペースにするために、ホワイエの部分はあまり直接的にホールとの関係が大きくなりすぎないように意識しました。
ホールの屋根については、ちょうどこの設計をしていた時に、多摩川にタマちゃんというアザラシが現れ、新聞やテレビで話題を賑わせていました。水面から頭が出たり入ったりしている様子が、見ていて非常に可愛かったんです。ですから屋根については、一度そうしたユーモアのあるものをつくりたいと思いました。
オープニングの前日に行ったところ、ちょうどお母さんが子どもを連れてすぐ近くの児童公園に向かってました。この様子を見てわれわれが非常に満足したのは、彼女たちが建物を意識していない風であったということです。この環境の中で建築のたたずまいを必要以上に感じさせない、つまりパビリオン風につくるということが、素直にユーザーあるいはパッサーバイ(通行人)に受け取られたのではないかということです。建築にはいろいろな反応の仕方があると思いますが、今回は「環境に対して、どういうコンテクストがどのように反応するか」というひとつの試みでした。都市の中でパブリック・スペースというのは、決して群衆だけを対象にしたものではなく、ひとりの人にとっても「よい場所」であるべきで、そういうものをどうやってつくるか、ということも私たちにとっては課題でした。
今日は時間と経験の話もしようかと思います。1984年に「藤沢市秋葉台文化体育館」をつくり、その後に「幕張メッセ」、「東京体育館」(1990年) と繋がっていくのですが、当時はまだCGのない時代でした。したがって、これらの建物はすべてステンレスの屋根でできていますが、設計にはひとつひとつ方程式で解いていくという作業が必要でした。この時もいろいろな模型をつくり、構造設計家の木村俊彦先生と私の事務所の担当者が一緒に現場へ行き、大きな模型をぶら下げて説明したりしたわけです。それが最近では新しいCGや3Dフォームの開発によっていろいろなソフトウェアがうまく使われるようになり、xyzの曲面体あで決定するということが、かなり簡単にできるようになりました。
「三原市芸術文化センター」の屋根は少し複雑で、ふたつの軸を持った回転体を合成したものです。しかしこの建物をつくるにあたって、鉄骨、メッシュトラス、それから上にくる実際のステンレスのカバーなど、すべての曲面の点をxyzで決定することができました。このようにxyzのあらゆる点が、全部の素材の曲面で出てくるようなことは、昔のような方程式を解いていくやり方ではなかなかできません。こう考えると、最近はテクノロジーによって、曲面体についての工法、解析がかなり容易になってきたことが言えると思います。そういった意味で新しいテクノロジーは効果的に使われる、ということもわれわれは少しずつ分かりかけているわけです。
われわれもよく事務所の中で議論しているのは、どこまで模型をつくり、どこまでCGで行うかということです。いかに効果的に模型やCG、あるいは図面を全体のプロセスの中で生かしていけるのかということは、一貫して重要な命題になっています。現在、海外では一部の企業、大学を除いては圧倒的に模型をつくらなくなっています。これについてはまた後でお話しましょう。